2026年9月14日月曜日

自由の鐘 (Chimes of Freedom)


1964年リリースの「Another Side of Bob Dylan」は、ボブ・ディランがプロテスト・ソングを歌うフォーク・シンガーのイメージを打ち捨てたアルバムでした。

このアルバムには、2つの長尺の曲が収録されていて、一つは8分16秒の「Ballad in Plain D 」です。ニューヨークに出てきたばかりの頃の恋人、スーズ・ロトロとの別れの情景を歌ったもので、ディラン自身が書いたことを後悔しているという珍しい曲。

もう一つは、名曲とされる7分10秒の「Chimes of Freedom」で、自らのギター伴奏だけで歌われる歌詞の内容はかなり抽象的で難解なものになりました。


日没と真夜中の鐘の途切れる間に、雷鳴を避けて私たちは軒下に身を寄せた
稲妻が鐘のように影を打鳴らし、自由の鐘の音のようにだ

戦わない戦士たち、武器を持たない難民たち、そして闇にまぎれた兵士のために
自由の鐘が鳴り響くのを私たちは見つめていた

街が溶けるような熱気の中、迫って来る壁から顔を隠して
私たちは稲妻と結婚の鐘が混ざり合うところを見た

反逆者、放蕩者、不運な者、見捨てられた者、置き去りにされた者のために
自由の鐘が鳴り響くのを私たちは見つめていた

雹が激しく降り、空は詩情を打ち砕き、教会の鐘の音はかき消され
稲妻の鐘と雷鳴だけが残った

優しい者、親切な者、心を守り保護する者、そして信念を持った画家のために
自由の鐘が鳴り響くのを私たちは見つめていた

夕暮れの荒れた大聖堂は、雨によって物語られるようだ
想いを語る場すらない名も無き者や、いつも軽くあしらわれる者に鐘が響く

虐げられた者、夫を亡くした母、卑しめられた娼婦、惨めな犯罪者のために
自由の鐘が鳴り響くのを私たちは見つめていた


(意訳 : 亜沙郎)


嵐の夜に雷と雨を避けて、どこかの街の家の軒下を借りている時に、聞こえてくる雷鳴がさまざまな弱者に対する鐘の音のように聞こえ、それらの人々への連帯を表明している内容です。

シュールレアリスムの先駆者と言われる詩人ランボーの影響があると分析する批評家もいますが、確かに歌詞の内容は今までにないくらい意味がわかりにくい。そのまま日本語にしたら、まったく理解不能な文章になってしまいます。

鐘を英語でいう場合、教会の鐘のような大きなものは「bell」が使われることが多く、「chime」というと入口のドアについている小型のものとか、楽器として使われるようなものを指すように思います。もしかしたら、この歌の場合は「バリバリバリ」と連続的に鳴る雷の音はドアの呼び鈴を続けて鳴らす、あるいは楽器が共鳴するようなイメージかもしれません。


それでも、たぶんこういうことを言いたいのだろうと想像に任せて訳したのが上の文章です。英語ネイティブの人には、どこかピンと来るところがあるのか、意外にこの曲をカバーしているアーティストが多い。特に有名なのはThe Byrdsですが、その後ブルース・スプリングスティーンのものも評判になりました。

ディラン自身は、1964年前半はコンサートで必ず歌う重要レパートリーになっていましたが、その後長らく歌うことはありませんでした。ところが、1987年に20数年ぶりにグレイトフル・デッドとのツアーで取り上げてからは、時々ステージで披露されています。

2026年9月13日日曜日

神を味方に (With God on Our Side)


世の中には様々なランキングがありますが、どんなに客観性を持たせようとしても、音楽に関してはそもそもが主観的な芸術のジャンルですから、評価の仕方をいろいろ変えても万人を納得させることは無理というものです。

ボブ・ディランについても同じ。アルバムの売れた枚数は、一見客観的な数字のように見えますが、数字として出てくるのはレコード会社から出荷された数字であって、それが本当に買われたかどうかはわからない。また、年々積み上がっていくはずなので、最終的な順位というものは変わるかもしれません。さらに名曲ベスト10とかになると、何をもって名曲と判断するのかは個々の判断によるものですから、人によっては驚くようなランキングを作ることだってあります。

ディランの公式HPは、多くの情報を開示していて、曲ごとのこれまでにライブなどで歌われた回数のカウントがわかります。この数字からは、ディラン本人の曲に対する好き嫌いなどが想像できるのですが、あまりファンの期待に迎合するタイプのアーティストではないので、名曲の判断とは別のものです。世間では名曲と言われていても、ライブでは一度も歌われていない曲だってあるわけで、そもそもいろいろな大人の事情も加わっているかもしれません。

全部で600曲以上あるディランの自作曲の中で、ファンがごく一般的に好きな曲とする定番の曲、あるいはこれだけは知っていて欲しいと思っている曲は、ある程度意見が一致していると思います。ネットなどで見聞きすることが多いもの、ライブなどでよく演奏されているもの、そして当然ながら自分の好みも加味して、それらをリストアップしてみます。好みの問題があるので順位は付けません。

Blowin' in the Wind
Time They Are A-Changin'
Like A Rollin' Stone
Just Like A Woman
Mr.Tambourine Man
Knockin' on Heaven's Door
My Back Pages
Don't Think Twice, It's Alright
Forever Young
Hurricane
Gotta Serve Somebody
All Along the Watchtower
Changing of the Guards
Girl from the North Country
Lay Lady Lay
Simple Twist of Fate
Tangled up in Blue

もちろん、これらは有名なだけでなく、曲としても良いものだと思いますが、これら以外にあまりランキングに入って来ない「長尺物」と呼べる曲がある。単純に時間的に長いということですが、ディランの場合演奏そのものより、圧倒的に歌詞が長い。ヒットチャートを賑わすことは絶対と言って良いほど無いのですが、実はディランの作詞家としての本質が現れるのはこれらの曲です。

何分以上なら長尺という定義があるわけではありませんが、最近は長いものが増えたとはいえ通常のポップスは数分の長さが多い。これはもともとラジオなどで流す際の都合で合わせられた側面がありそうですが、アーティストが表現したいことを詰め込むにはちょっと時間が足りないと言えます。ここでは一応、5分間以上のものの中から、歌詞の内容に注目していくつかの曲を紹介していくことにしたいと思います。

最初にチョイスしたのは、「With God on Our Side」です。

アルバムは1964年リリースの「The Times They Are A-Changin'」に収録されていて、時間は7分8秒。


俺の名前や年なんてどうでもいい
故郷は中西部で、そこで従うべき法と
神が味方についていることを教わった
歴史書には騎兵隊がインディアンを倒したことが書いてある
神はまだ若かったこの国に味方した

スペインとの戦争や南北戦争もあった
神を味方にして銃を手にした英雄たちの名前を覚えさせられた
第一次世界大戦も同じで、自分には戦う理由はわからない
でもそれを誇りをもって受け入れることを学んだ
神が味方しているから、死者の数なんて数える必要はない

第二次世界大戦の後、ドイツを許し友人になった
彼らは600万人を死に追いやったけど、今は彼らにも神が味方している
ロシアを憎むように教わり、もしかしたら次の敵は彼らだ
彼らを憎み、怖れ、そして彼らから逃げて隠れるのだ
神を味方にして、それらを受け入れないといけない

でも、今では我々は化学兵器を持っている
使うべき時にはそれを使うだろう
神が味方しているから、何の疑問も無くその一撃を放つのだ
暗い中でキリストが接吻によって裏切られたことを考えてきた
イスカリオテのユダにさえ神が味方したかは君が決めることだ

とても疲れたからもう俺はここを離れるよ
そしてとても混乱していて、頭の中にはたくさんの言葉があるけど
それを口にすることができないでこぼれ落ちている
もしも、神が味方しているなら、神が次の戦争を止めてくれるだろう

(意訳:亜沙郎)


実際の歌詞には、この倍くらいの言葉が詰まっていますが、一番目立つのは「神が味方していてくれている」ということと、裏を返せばそれゆえにどんな戦争も正当化されてきたという痛烈な社会批判です。アメリカ建国のそもそもの始まりから、誰もが神がついているから自分たちは正しいのだという理屈を信じて歩んできたことが歌われています。

戦ってきた相手にも、たいていは何らかの「神」がついているわけであり、ことドイツについては、アメリカと同じでキリスト教の中でもプロテスタントが主流でしょうから、神が味方しているから何でも正しいというのはかなり強引な考え方です。

象徴的なのは、ユダが登場するところ。1966年のイギリス・ツアーのライブ会場で、ディランは観客の一人から「ユダ!!」と罵声を浴びています。これはフォークからロックへ鞍替えしたことが、ファンに対する裏切りと思われたものですが、声を上げた客は、もしかしたらこの曲のことが頭にあったかもしれません。

曲自体はイギリスのトラディショナルとそれを基にした1958年の別の歌からインスパイアされたものであると考えられています。ただし、そのきっかけとなったのは1963年のニューポート・フォーク・フェスティバルで聴いたものというのですが、そのフェスティバルですでにジョーン・バエズとのデュエットでこの曲を披露している(有名な動画あり)ので、成り立ちの真偽は不明です。

ディランは別の曲かと思わせるほどメロディを変えてしまうことがありますが、歌詞についても変更されることは珍しくはありません。1975年のRolling Thunder Tourの時には、ロシア以外にもいろいろな国名を並べて歌ったりしました。80年代後半には、「ベトナムでは何のために戦っていたのか。若者が大勢死んで母親が泣いた。神は我々の味方だったのか」という歌詞を追加しました。60年代にはリアルタイムの生々しさがあって歌の中には入れるのは控えたのかもしれません。

2026年9月12日土曜日

AIとの向き合い方


最近、巷では何でもAI、AIと、猫も杓子もAIブーム。

まぁ、サブスク支払ってまで、高度な機能を使う理由もないので、とりあえず各社の無料で使える部分を試してみました。

Windowsを使っていると、MicrosoftのCopilotが相性が良さそうですが、アプリケーションとの連動は無いので、いちいちコピー&ペーストを繰り返す必要があって面倒です。

それと、いろいろ制約もあってか、こちらの望んでいる成果が出にくいのが残念なところと感じました。

ブームの先駆けであるChatGPTも同様なんですが、旅行プランを頼んでみると、帰ってくる答えは箇条書きで温かみはありません。

ブラウザにGoogle Chromeを使っているので、GoogleのGeminiは、何かと作業している内容との連携がしやすくて気に入りました。

旅行パンフレットも、文章として作ってくれて、タイムテーブルなどもわかりやすいので、一番具体的な答えを返してくれました。

こうやってブログ記事を書いていて、すぐに「誤字脱字のチェック」と入れれば、すぐさま指摘してくれますし、頼んでもいないのに「素晴らしい記事ですので、このまま投稿してかまいません」などと褒めてくれます。

ただ、あくまでもネットにあふれる情報の中から選んできたものが答えになっているので、元ネタが間違っているために、まことしやかに間違った情報を提示してくる場合も時にはあります。

やはり、全面的に信用することはせず、自信がある時は、それ違うんじゃない、と4回くらい指摘するとGemini君は黙ったり、時には間違いを認めて謝ってきたりするところが人間っぽい。

Geminiの遊び方で、ちょっと楽しいのは画像生成機能です。

たぶん著作権とか肖像権とかの縛りはありそうですが、Chromeに写真をドロップしておいて、××な写真にしてとお願いすると、かなり優秀な作画で驚きます。

人物については、かなりいじってしまうので、ある程度細かい条件を付けたほうが良さそうです。

ちなみに上の写真は、「この記事にふさわしい実写っぽい写真を作ってください」という指示をしたら出てきたもの。

うまく使えば、無料サービスの範囲でも確かに作業効率が上がることは間違いありません。とは言え、そのままAIの言うことを鵜吞みにしないで、自分でも他の方法でファクト・チェックを怠らないことが大切ですね。

2026年9月11日金曜日

Shadow Kingdom (Movie 2021, Music 2023)


新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、2020年はついにステージに立つことができなかったボブ・ディランでしたが、6月にニュー・アルバムをリリースして御大健在ぶりを見せつけました。そして12月に、自身がこれまでに発表した600曲以上の楽曲の音楽出版権(パブリッシング・ライツ)をユニバーサル ミュージック グループに完全売却したことが発表されました。

契約額は3億〜4億ドル(約300億〜400億円以上)規模と報じられ、音楽業界で大きな話題となりました。これは、言ってみれば「終活」のようで、そのまま自分で権利を保持していた場合、その相続には莫大な費用がかかるため、むしろ現金化した方が有利という判断のようです。

パンデミックで活動を大きく制限されたミュージシャンの多くは、2021年になると無観客ライブを行いネットで配信することを始めました。日本でも同様の趣旨のライブ配信がたくさんありましたが、正直に言うとライブは観客の反応込みで成立することがあらためて理解できました。無観客はそれなりに面白いところはあるのですが、ミュージック・ビデオを見ているようで、ノリノリの熱気みたいなものは生まれてきません。

そんな中で、ディランは5月についに80歳の大台の誕生日を迎えます。そして7月18日に配信ライブを公開しました。事前の情報はかなり限定的で秘密に包まれていたのですが、いざ蓋を開けると無観客ライブではなく、作り込んだ映画のような映像美のもと旧曲を新たなアレンジでディランが歌うという内容でしたが、凝った演出を含めて高い評価を得ることになりました。

詳細なクレジットが公開されていないため、その制作過程については不明な点が多い。間違いないのは、白黒の美しい映像を完成させたのはアルマ・ハレルで、多くのミュージック・ビデオ作品で高い評価を得ているイスラエル出身の女性の映画監督です。

参加したミュージシャンたちのコメントなどを総合すると、そもそもの音源のレコーディングはロサンゼルスで、1月から3月にかけて行われたようです。注目すべきは、ディランのバンドとしては初めてドラムレスというところです。全体のリズムをリードしているのはアコーディオンで、アップライトのウッド・ベースが低音域をしっかりとカバーしています。

そして出来上がった音楽を、映像として完成するためにサンタモニカのスタジオにセットが組まれ、架空のマルセイユにあるレトロな「The Bon Bon Club」のステージにディランが登場するシーンが1週間ほどかけて撮影されました。興味深いのは、この映像に登場するミュージシャンはすべて本物で、例えばベースのジェイニー・コーワンは今最も注目の女性ベーシストですし、アコーディオンのアレクサンダー・バークは売れっ子ミュージシャンです。

映像では彼らは事前に録音された音源に合わせて、演奏する「演技」をしているのです。いわゆる口パクみたいなもので、フィンガーシンクロと呼ぶようです。ですから、最後のクレジットでは「Player」となっていて、「演奏者」というより「演技者」のニュアンスが強い。ただ好きなように歌うディランが口パクするのは、何か無理がありそうな気がするので、ディランだけはその場で歌っている可能性は十分ありそうです。

いずれにしても、このような手の込んだ手法は、パンデミックの影響で必要な人材を好きな時に好きなだけ集めることができないための、苦肉の策というところかもしれませんが、その分映像に登場するミュージシャンには余裕があって、いろいろと画面に合った動きを無理なくできたという利点があったのではないかと思います。

音楽としては、「昔の曲の焼き直し」という否定的な意見も散見されますが、全般的には好意的な意見が多い。実際、確かに「The Early Songs」というサブタイトルがついているぐらいですが、まったく今まで聞いたことがない新しいバンド・サウンドで、元の曲の名残を残しつつも再構築された楽曲は聴き応えがあります。

老齢の域に入ったディランは、自分のルーツ音楽を再生する作業を続けてきたことを考えると、ついにその矛先が自分そのものに向かったと考えれば、この企画は十分に納得できるものだと思います。2023年6月に、この映像のサウンド・トラックとしてCDが発売されました。

2021年11月にはライブ・ツアーが再開され、「Rough and Rowdy Ways World Wide Tour」と名付けられました。ライブの傍ら、2022年11月に他人の楽曲の魅力を掘り下げた「Philosophy of Modern Songs」を出版しています。2023年は待望の日本公演も行われ、2025年2月に伝記映画「A Complete Unknown」が公開され、その存在が世界から再注目されました。2026年も、85歳になりましたが相変わらずステージに立ち続けており、年内はびっしりライブの予定が詰まっています。


When I Paint My Masterpiece
Most Likely You Go Your Way and I'll Go Mine
Queen Jane Approximately
I'll Be Your Baby Tonight
Just Like Tom Thumb's Blues
Tombstone Blues
To Be Alone with You
What Was It You Wanted
Forever Young
1Pledging My Time
The Wicked Messenger
Watching the River Flow
It's All Over Now Baby Blue
Sierra's Theme

Bob Dylan (vo, g, harmonica)

Players :
Alexander Burke (accordion), Buck Meek (g), Shahzad Ismaily (g)
Janie Cowan (b), Joshua Crumbly (g)

MUsicians :
Jeff Taylor (accordion), Greg Leisz (g, pedal steel guitar, mandolin)
Tim Pierce (g), T-Bone Burnett (g), Ira Ingber (g)
Don Was (aco.b), John Avila (ele.b), Doug Lacy (accordion)
Steve Bartek (aco.g)

Janurary ~ March, 2021, Los Angelses

☆☆☆☆☆☆☆☆・・

2026年9月10日木曜日

Rough and Rowdy Ways (2020)


ボブ・ディランは2012年の「Tempest」リリース後、アルバムではアメリカの古い曲を再発見・再構築することに注力し、新しい自作曲はまったく登場していませんでした。しかし、2013年にはフランス政府から最高権威の勲章であるレジオン・ドヌール勲章(シュヴァリエ)を授与されたり、2015年にはグラミー賞関連団体からの「ミュージケアーズ・パーソン・オブ・ザ・イヤー」を受賞。そして、大きな話題となった2016年のノーベル文学賞受賞という具合に、長年に渡る音楽芸術の発展に寄与した功績が評価されています。

70代でいよいよ「過去の人」になったかのような印象を持ちますが、実は「Never Ending Tour」はほとんど同じようなペースで続いていて、それだけでも驚異的な事です。演奏スタイルは、立ってギターから坐ってピアノを弾くスタイルが増えたのですが、それくらいの変化に対して文句を言う者など一人もいません。

また、過去の未発表音源を集大成する「The Bootleg Series」が、続々と登場していて、その度ごとに埋もれていた名曲・名演に誰もが驚き、ディランの新たな評価につながりました。また、2019年に伝説的な1975年の「Rolling Thunder Revue」ツアーを題材にしたマーティン・スコセッシ監督によるNetflix映画が公開され、さらに注目を集めることになりました。

年老いてもこのペースで活躍し続けると思われた2020年、年明けから世界中を大混乱に陥れた新型コロナウイルスによるパンデミックが発生しました。4月からは日本ツアーが組まれていましたが中止となり、ディランに限らずほとんどの音楽家はステイ・ホームを余儀なくされ、活動を休止せざるを得ない状況になりました。

ところが、そんな中でディランがディランたる動きを見せます。3月下旬に、突然オフィシャル・サイトで「Murder Most Foul」を公開したのです。ケネディ大統領暗殺から始まり60年近いアメリカの文化史の移り変わりを描き出した17分近い新曲で、事前の予告などがまったく無かったことから業界やファンは騒然となりました。

さらに6月に全曲自作曲のニュー・アルバム「Rough and Rowdy Ways」がリリースされ、世界中で大ヒットしました。タイトルは直訳すると「荒々しく騒がしい道」ですが、まさにディランの生き様を象徴するような「波乱万丈」という意味がしっくりきます。

2019年12月初旬にツアーが一段落したところから、曲作りやリハーサルが始まっていたようです。このツアーのバンドはこの数年で自他ともに最も素晴らしいと評価されていたことが、創作意欲をかきたてたのかもしれません。

主なレコーディングはハリウッドで1月から2月に行われ、パンデミックによるアメリカ国内のロックダウンは各地で3月中旬から始まったので、もう少し遅かったら完成できなかったかもしれないギリギリのタイミングです。演奏にはツアー・バンドを中心として、フィオナ・アップル(p)、ベンモント・テンチ(key)、ブレイク・ミルズ(g)らのゲストが加わりました。

録音はディランのスタイルである、細かい打ち合わせはほとんどしないで、ほぼライブ感覚の一発録りで行われ、その場のミュージシャンは高度な緊張を強いられたようです。スタンダード集を経て、ディランのボーカルは渋味が増し、洗練されたさらなる進化が伺えることも含めて、アルバムは各方面で絶賛されました。

CDは2枚組で、1枚目には9曲、2枚目には「Murder Most Foul」の1曲だけという構成で、全部で70分。つまり、一枚のCDに収めることも可能だったにもかかわらず、「Murder Most Foul」だけを独立させたのには、この曲への強い思いが感じ取れます。

全体的には21世紀になってからのサウンド、つまりフォーク、カントリー、ブルース、ロックンロールなどの要素を取り込んだ、少し懐かしさを感じるようなムードの中にモダンな要素が取り入れられた音楽・・・という表現が順当なのか、正解がよくわからないところはあります。ただ、これが「ディラン」という種類のある種の音楽のジャンルみたいなものと考えれば、ディランは絶好調で我が道を進んでいるというところでしょう。


I Contain Multitudes
False Prophet
My Own Version of You
I've Made Up My Mind to Give Myself to You
Black Rider
Goodbye Jimmy Reed
Mother of Muses
Crossing the Rubicon
Key West (Philosopher Pirate)
Murder Most Foul

Bob Dylan (vo, g, harmonica)
Charlie Sexton (g), Bob Britt (g), Tony Garnier (b)
Donnie Herron (steel guitar, vn, accordion, mandolin)
Matt Chamberlain (ds)
Blake Mills (g, harmonium), Benmont Tench (org), Alan Pasqua (pf)
Fiona Apple (pf), Tommy Rhodes (b)

January ~ March, 2020, Los Angeles

☆☆☆☆☆☆☆・・・

2026年9月9日水曜日

ノーベル文学賞


ボブ・ディラン、70歳代後半に差し掛かっても、新しいオリジナル曲は登場しませんが、カバー曲集を作り続け、そして何よりも1988年以来の「Never Ending Tour」が継続しています。まさに「終わることの無い旅路」に相応しい。

公演回数は2013年85回、以後92回、87回、75回、84回、84回そして2019年には77回です。この間に、2014年と2016年には日本公演も行われています。2020年も4月から日本でのステージが予定されていましたが、そこに降ってわいたのが世界中を混乱に陥れたコロナ禍です。

これまで一つのまとまったツアーとツアーの間に、アルバム制作、休養などで1~2か月間ステージから離れることはありましたが、2020年は来日公演は当然中止になり、年間のライブ活動は0回になってしまいます。

しかし、この間にディラン人生において最大(かもしれない)の出来事がありました。

2016年10月13日、スウェーデン・アカデミーからノーベル文学賞が発表され、「偉大なアメリカの楽曲伝統の中に、新たな詩的表現を創造した」としてディランが受賞したのです。ノーベル賞は世界最高の権威とされていますが、ポピュラー音楽のミュージシャンが受賞するのは、1901年の第1回以来史上初のことです。

この発表には世界中が驚き、「文学としての歌詞の価値」について大論争が巻き起こります。発表後、ディランは沈黙を続けたため、ディランは受賞を拒否するのかメディアは固唾をのんで見守りました。自らの意思で受賞拒否したのは1964年のサルトルだけです。ディランなら拒否するんじゃないかと考える人も多かったのですが、10月末になってディラン自身の口から受け入れが表明されました。

ただし、12月10日にストックホルムで行われる授与式は、「はずせない先約」のため欠席。少なくとも当日のライブの予定はなく、その日にディランが何をしていたかはいまだに不明です。代役として式に出席したパティ・スミスは、「A Hard Rain's A-Gonna Fall」を歌いましたが、緊張のあまり歌詞が出なくなりやり直すと言うハプニングがありました。

その後、本人は2017年4月のストックホルム公演の際にメダルを受け取り、6月に「受賞記念講演」とする26分間のスピーチを公開しました。

このスピーチの中で、ディランは自らの音楽のルーツについて語っています。こどもの頃からカントリー・ウェスタン、ロックンロールとリズム&ブルースに慣れ親しみ、間近でバディ・ホリーの演奏を聴いたことが音楽家を目指す大きな動機になったこと、そして曲を作る上で大きな影響を受けた文学作品として「白鯨(メルヴィル)」、「西部戦線異状なし(ルマルク)」、「オデュッセイア(ホメロス)」の3つをあげました。

その上で、「歌と文学は違う。歌は歌われるものであって読むべきものではない。どんな形でもいいから音楽として聴いてほしい」とし、ホメロスの「詩神よ、私の中で歌い、私を通して物語を伝えてくれ」という言葉で結んでいます。

文字が広まっていない古代では、物語は口から口へと伝わる口承文学だったわけで、音楽はそれを伝えやすくするために発展したという側面があります。また物語を恒久的に伝える手段として舞台があり、そのための台本としての戯曲を文学として完成させたのがシェイクスピアです。アカデミーは、ディランを口承文学の現代の継承者として評価したのでした。

ちなみに、ディランがいつでもウェリントン型のサングラスをかけているのは、バディ・ホリーの影響であると考えると、合点がいきました。

2026年9月8日火曜日

The Great American Songbook


これは単一のアルバム名ではありません。CD1枚組が2つ、CD3枚組が1つ、合わせてCD5枚分の3つのアルバムの音源をまとめて、あえてこう呼ぶことにしました。それぞれのCDに10曲ずつ、計50曲あります。

その理由は、実はこれらのアルバムはボブ・ディランの自作曲は含まれないどころか、アメリカの有名なポピュラー音楽のヒット曲ばかりを集めたもので、まさに究極のカバー曲集です。「Great American Songbook」はアメリカのポピュラー音楽の標準的名曲群を指す一般的な用語です。

これまでも、カバー曲だけのアルバムはありますが、それらは他人の曲をディランの側に引き寄せたもので、原曲を知らなければディランが作ったように聞こえるものでした。ところが、これらは違います。ディランからヒット曲にできるだけ近づいたもので、どうしたって空気感がまったく異なる世界です。

日本でも、一頃ベテラン歌手が往年の他人のヒット曲をカバーするアルバムが流行った時期がありますが、最初は楽しめないことはないのですが、いくつも出されるとさすがにもう結構ですと言いたくなる。

対象となるのは、

Shadows in the Night  (2015年2月リリース)
Fallen Angels  (2016年5月リリース)
Triplicate  (2017年3月リリース)

最初の「Shadows in the Night」は、フランク・シナトラのヒット曲のレパートリーの中から選ばれています。曲本来の姿を露わにして、名曲が名曲たる所以を再確認させてくれたとアメリカ国内では比較的好意的な意見がありました。

次の「Fallen Angels」も同様のコンセプトで、いずれも録音自体は2014年にツアーの合間を縫って行われています。こちらもアメリカでは評判は悪くありません。

ディラン初のCD3枚組の「Triplicate」は、2014年から2016年に断続的に録音されています。シナトラにこだわらずオール・アメリカンの有名曲を集めたもので、基本的にいずれも英語圏では概ね好意的にみられています。ホーン・セクションが加わり、スイング・ジャズ色が強まり、またウッド・ベースも強調されています。

日本では、これらの原曲に対して愛着があるファンは限られます。ジャズのスタンダードになっている曲が多いので、自分のようなジャズ好きな者にはメロディは多少馴染みがあるものの、さすがに歌詞についてはまったくの門外漢。

比較的まともに歌っているので、ボーカル・アルバムとしての面白さはあるものの、やはり「古い曲の再発掘」というような価値観は持てないというのが正直な感想です。ましてや、さすがに3作連続というのは英語圏でも飽きられた部分が無いわけでもない。

いつものツアー・バンドのメンバーが中心になって伴奏についていますが、かなり40~60年代のクラブのステージでの演奏を思わせるものなので、こちらもいつもの勢いは感じにくい。

通常のファンはあえて聴かなくても問題はないように思います。ただし、ディランが自らのルーツを見直して再構築するという意義は、これらのアルバム制作の動機として重要なので、ディランのマニアは避けて通れません。また、普通にシナトラやビング・クロスビーなどのファンの方は、楽しめるアルバムだと思います。

2026年9月7日月曜日

タコス


メキシコ料理と言えば、タコス!!

いや、他にもあるよと言われそうですが、たぶん普通に知られているのはタコスが一番だと思います。

トウモロコシの粉(マサ)から作る薄焼きのパン、これがトルティーヤ。

トルティーヤにいろいろなものを挟んで食べるのがタコ、複数形になるとタコスでメキシコの国民食と言われています。タコス専門の料理店はタケリアと呼ぶらしい。

中に使う具材はいろいろ。地域差もかなりあるらしく、特定のルールに縛られるわけではないようですから、好きな物を好きなだけ挟めばいいんでしょうけど、一応定番とされているものがあります。

挽肉にクミン、チリパウダーなどを入れて煮込んで風味付け・味付けしたものがタコミート。

味の主役はサルサソース。トマト、タマネギ、ピーマンなどを細かく刻んで、レモン汁、塩、ニンニク、辛いのがお好きならタバスコなどで味を整えたもの。

この二つははずせない感じですが、他にオリジナルでカレー風味のポテトとコンソメ風味の刻んだムキエビなども用意してみました。

買ってきたトルティーヤは、電子レンジでOKと書いてありましたが、オーブントースターで温めたほうが美味しく食べれました。

比較的健康的な感じですが、美味しくてどんどん食べられるので、注意しないとね。

2026年9月6日日曜日

Complete Album Collection Vol. One (2013)


2013年11月にリリースされたのが、これまでのすべてのアルバムをまとめた巨大ボックス・セットです。

当時コロムビア・レコードはこの手の企画をたくさん立ち上げていて、クラシックならピアノの巨匠、ウラジミール・ホロヴィッツやグレン・グールド、ジャズならマイルス・デイビスなどの巨大ボックスが飛ぶように売れました。

これらはデジタル化、ストリーミングの流れを受けて、アナログな存在であるオールド・メディアを売れるうちに売り切ってしまおうという、他のレコード会社にも共通した流れでした。

特定のアーティストのすべての音源を、格安に手に入れられるチャンスだったので、自分もたくさんボックス・セットを購入しました。ただし、今となっては保管場所に困るという、最初から分かり切っていた悩みを抱えることになってしまいました。


ボブ・ディランの場合は、1962年のデヴュー作から2012年の「Tempest」まで、正規に発売されたスタジオ・アルバム、ライブ・アルバム全40タイトルがCD45枚(CD2枚組を5セット含む)に収められています。

また、ディラン自身が自分のアルバムとしては認めずに廃盤にした、1973年の「DYLAN」が初CD化され復活しているのは、評価されるポイントかもしれません。「Greatest Hits」や「Biograph」などのコンピレーションは含みません。

そしてコンピレーションだけに含まれるもの、シングル盤としてだけ発売されたものなどを集めた「Side Tracks」と題された2枚組が追加されていて、「The  Bootleg Series」や「Live Recordings」のシリーズで陽の目を見たものを除くと、ほぼすべて(公式リリースされてこのボックスに含まれないのは10数曲)のディランの音源がまとまります。ちなみに日本でだけ、「Side Tracks」は単独でも発売されました。

ディランの自伝も「Chronicles Vol.1」となっていましたが、このボックスもわざわざ「Vol. One」と付いているのは、ちょっとした洒落みたいなもので、ディランのセンスなのかレコード会社のものかはわかりません(Vol.2が出ることはたぶん無い)。これ以降に発売されたものは個別に手に入れるしかありませんが、実売3万円程度ですべて揃ってしまうのは優れたコストパフォーマンスです。

日本国内盤は日本語の解説が付きますが、中身はアメリカまたはヨーロッパからの輸入盤です。紙ジャケット仕様なのがマニアには嬉しいところ。輸入物の紙ジャケットは粗悪なものが多いのですが(日本盤が丁寧すぎるのかもしれません)、このセットは比較的まともなので安心です。付属のハードカバーのブックレットには詳しいトラックリストやレコーディング・データが満載です。

内容はすべて2003年以降にリマスターされていて、基本的に音質については特に問題はありません。よほどのオーディオ・マニアでなければ、特に不満を感じることはないと思います。例えば、これまで書いてきた記事の内容を、音で確認するにはこれほど最適なセットはありません。

と、良いことづくめみたいに書いていますが、すべてを「持っている」こととすべてが「わかる」ことは違います。特にディランの場合、一度や二度聴いただけだと「何だこりゃ」となる場合も少なくないし、英語の歌詞がわからないのでなおさらです。やはり聴き込む必要があるし、聴き込む価値があるアーティストだと思いますので、このようなセットは飾っておくだけでなくフルに利用することを強くお勧めします。

2026年9月5日土曜日

Tempest (2012)


ボブ・ディラン、71歳、前作から3年ぶりの新しいスタジオ・アルバムです。この年齢でも創作意欲が衰えていないことが凄いと思いますが、この間もステージに立ち続けるペースは落ちていないことは、さらなる驚きです。

2010年は、2月にオバマ大統領主催の公民権運動追悼イベントに出演し、3月には9年ぶりの来日公演を観客との距離が近いライブハウスで行い、5月から11月末まで世界中を回ってステージをこなしています。これらのライブの合間に、すでに新作のアイデアが生まれています。2011年になっても、3月から11月まで、4月の初めての中国でのライブを含めて89公演を行い、この間に70歳の誕生日を迎えました。

2012年の年明けから、ディランは新しいアルバムの録音に入ります。今回も、Jack Frost名義のセルフ・プロデュース、レギュラーのツアー・バンド・メンバーを中心に、ロス・ロボスのデヴィッド・イダルゴを迎えてのセッションになりました。作業は、例によって一発録りに近い形で行われ、3月には終了しています。

1997年の「Time out of Mind」以後、完全復活したディランですが、以後のアルバムは「ボブ・ディラン」というアーティストを形成したルーツをたどり、再発見し再確認して再構築することで現代に再提示する作業の連続と言えます。今回もそのコンセプトは継続していますが、比較的ダークなストーリー・テリングに重きを置いたものとなりました。

2012年5月、ホワイトハウスにてバラク・オバマ大統領から、文民に贈られる最高位の栄誉である「大統領自由勲章(Presidential Medal of Freedom)」を授与されました。音楽関係者では、ボノ、ドリス・デイ、フランク・シナトラ、ブルース・スプリングスティーン、ヨーヨー・マ、アレサ・フランクリンなどが受賞しています。授賞式でのディランは、終始、無言・無表情でオバマ大統領も「それも彼らしい」と語っています。

この年の後半は、再び「Never Ending Tour」の毎日に戻りますが、9月にこの「Tempest」がリリースされると、またもや70代の巨人の新作は大絶賛されます。年老いてなお、前作を凌駕するようなアルバムを出せることに、多くの評論家や一般のファンは驚くしかありませんでした。

1曲目の歌詞だけはロバート・ハンターとの共作で、作曲時期は前作「Together Through Life」制作時のものかもしれません。ラジオから聞こえてくるようなスティール・ギターのイントロから始まり、懐かしい響きを持つ軽快な曲ですが、列車の汽笛が死や運命の象徴として歌われアルバム全体の雰囲気を示しています。以後のツアーでも毎回のようにセットリストに加わりました。

2曲目以後も、深夜過ぎの不穏な空気、荒廃した世界、男女の破局、血の代償、人の醜さ、権力欲への皮肉、三角関係の悲劇などをテーマにしています。そして14分超えの壮大なアルバム・タイトル曲で、「タイタニック号の悲劇」を想像を膨らませて虚実混在するドラマを歌い上げます。

ラストを飾るのはジョン・レノンに捧げた哀悼歌です。レノンの書いた歌詞のフレーズを織り込み、功績を讃え安らぎを祈っています。ガスリーの影響を強く残す1962年頃に、プライベート・テープやステージで歌っていた同名曲がありますが、それは労働者を歌うトラディショナルで別のものです。


Duquesne Whistle
Soon After Midnight
Narrow Way
Long and Wasted Years
Pay in Blood
Scarlet Town
Early Roman Kings
Tin Angel
Tempest
Roll On John

Bob Dylan (vo, g, pf)
Tony Garnier (b), Donnie Herron (steel guitar, banjo, vn, mandolin)
David Hidalgo (g, accordion, vn), Stu Kimball (g)
George G. Receli (ds), Charlie Sexton (g)

January ~ March, 2012, Santa Monica, California

☆☆☆☆☆☆☆・・・

2026年9月4日金曜日

Christmas in the Heart (2009)


第1位はダントツでエルビス・プレスリー、第2位はマライア・キャリー。ランキング上位にはケニー・G、セリーヌ・ディオン、ナット・キング・コール、ビング・クロスビー、カーペンターズなどなど、そうそうたる面子が並びます。

そう、これはホリデー・アルバムの売り上げ枚数ランキングの話。トップのプレスリーはいろいろな形で発売されたものを全部合わせると2000万枚以上になるらしい。キャリーは2枚のアルバム、特に最初の1枚だけで1500万枚以上というのは実質的にはトップかもしれません。

ホリデーというのは、イコール「クリスマス」のことで、キリスト教の国にとっては新年より、12月25日のキリストの誕生日の方が重要。この時期、ホリデー・シーズンを当て込んだレコードやCDは、昔からたくさん作られてきました。

さて、ここで、久々の困ったディランのアルバムの登場となります。一般には「Empire Burlesque」とこの「Christmas in the Heart」が、二大珍品アルバムとして扱われることが多い。最初に種明かししておくと、ディランのホリデー・アルバムは売れた枚数は世界中でもたぶん数十万枚です。

先によかった点を整理しておきます。2009年は「Together Through Life」が4月に発売され、同じ年にさらにアルバムが発売されたことは評価できるポイントです。また、このアルバムで発生する印税収入は、食料支援のための慈善団体への100%永久寄付としているところも嬉しい。

そもそも、何でアルバムを作ったのか? ということなんですが、2006年からディランがパーソナリティを務めるラジオ番組で、クリスマス・ソングの話題をしているうちに思いついたらしい。またユダヤ教の家庭に育ちながらも、こどもの頃に慣れ親しんだ音楽に対する愛着もありました。

5月にスタジオ入りすると、一気にアルバムを仕上げてしまいました。レギュラー・バンド・メンバーが中心ですが、彼らもスタジオで初めてホリデー・アルバム制作と知って驚いたようです。しかも、手本になりそうな古いレコードを聴かせただけで、さぁやってみよう、という感じの一発録りです。

いきなり鈴の音が響いてコーラス隊の美声が聞こえてくると、確かにクリスマスだなと思わせます。そこにディランのだみ声が出てきて「サンタがやってくる」となるので、最初はおいおいと突っ込みたくなる・・・んですが、不思議なことに何かこれはこれでありかもしれないと思ってしまいます。

「The Christmas Blues」は、ジャジーなブルースで、この時期のディランとしては最も普通に聴けるのですが、むしろこのアルバムの中では異質な感じがするという逆転現象が起きています。その次がまさに教会で聴けそうな讃美歌なので落差がすごい。時には、ルイ・アームストロングが歌っているのかと勘違いしそうなところもあります。

とにかく、本人は大真面目に作ったものですから、ディランのファンなら肩肘張らずに数年に一度はクリスマスに聴くようにしましょう。


Here Comes Santa Claus
Do You Hear What I Hear?
Winter Wonderland
Hark the Herald Angels Sing
I'll Be Home for Christmas
Little Drummer Boy
The Christmas Blues
O' Come All Ye Faithful (Adeste Fideles)
Have Yourself a Merry Little Christmas
Must Be Santa
Silver Bells
The First Noel
Christmas Island
The Christmas Song
O Little Town of Bethlehem

Bob Dylan (vo, g, pf, harmonica)
Tony Garnier (b), George Receli (ds)
Donnie Herron (steel guitar, mandolin, tp, vn), Phil Upchurch (g)
David Hidalgo (accordion, g,  mandolin, vn), Patrick Warren (key)
Choir : Amanda Barrett, Bill Cantos, Randy Crenshaw, Abby DeWald,
Nicole Eva Emery, Walt Harrah, Robert Joyce

May 2009, Groove Masters, Santa Monica

☆☆☆☆☆・・・・・

2026年9月3日木曜日

Together Through Life (2009)


ピューリッツァー賞(Pulitzer Prize)は、アメリカの新聞王ジョセフ・ピューリッツァーの遺志に基づき1917年に創設された権威のある賞で、誰もが一度は見たことがある報道写真などが受賞作品として有名です。ただし、M.ミッチェルの「風と共に去りぬ」やE.ヘミングウェイの「老人と海」のような文学作品も受賞しています。

また、実は音楽部門というのもあって、そのほとんどがクラシック音楽関係の受賞でしたが、数人のジャズ畑からの受賞者もいて、特に驚かされるのは2018年にラッパーのケンドリック・ラマーが受賞していることでしょうか。

そして、我らがボブ・ディランも、2008年に部門からは離れて特別賞を受賞しました。特別賞は、優れた功績を残した人物が対象で、ディランの場合はポピュラー音楽やアメリカの文化に多大な影響を与えてきたことが評価されたものです。特別賞は、過去にはジョン・コルトレーン、セロニアス・モンク、デューク・エリントンといったジャズの巨匠が受賞しています。

これに対してディランは・・・ノーコメントを貫きました。日頃から他人による自分の評価に対しては、(自分が不調の時を除いて)ほとんど知らんぷりを決め込んでいるディランですから、らしいと言えばらしいわけで、その時でも淡々とツアーを続けていました。

秋頃になって、映画監督のオリヴィエ・ダアンから、映画の主題歌の書き下ろしの依頼が来ます(出演ではありません)。映画は「My Own Love Song」というタイトルのレネー・ゼルウィガー主演のロード・ムービーで、引き受けたディランは早速グレイトフル・デッド専属の作詞家ロバート・ハンターに協力を依頼して「Life Is Hard」を書き上げ、12月にスタジオで録音を行いました。

すると、あれよあれよという間に、次々にアイデアが湧いてきてアルバムが作れるほどになりました。これは、よほどセッションの雰囲気が良かったということらしい。ハンターと共作するのは「Down in the Groove」以来でしたが、1曲を除いてすべてが共作になっています。

ツアーのレギュラー・バンドのメンバーの他に、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのマイク・キャンベルのギターとロス・ロボスのデヴィッド・ヒダルゴのアコーディオンが効果的にフィーチャーされました。プロデューサーはジャック・フロスト(ディランの偽名)です。

前2作のようなオールド・アメリカン再発見という趣向は薄まりましたが、モダン・ブルース、モダン・ロックンロールというような古くて新しい雰囲気に統一されたアルバムになりました。2009年4月に発売されると、音楽各誌は高い評価をし、ビルボード誌でも週間1位に輝く成功を収めました。発売形態は、1枚組CDと2枚組LPレコードでしたが、ディラン出演のラジオ番組の音声と元マネージャーへのインタビューを収録した3枚組CDのデラックス版も作られました。

スタートはラテン調で、映画の主題歌「Life Is Hard」は2曲目の哀愁漂うカントリー調のバラードです。続いては「妻の故郷は地獄」というブラックなブルース。全体的にはミディアム・テンポで、落ち着いた大人の音楽という感じで、都会的だったり泥臭かったりと雰囲気で一気に最後まで聞かせます。


Beyond Here Lies Nothin'
Life Is Hard
My Wife's Home Town
If You Ever Go to Houston
Forgetful Heart
Jolene
This Dream of You
Shake Shake Mama
I Feel a Change Comin' On
It's All Good

Bob Dylan (vo, g, key)
Mike Campbell (g, mandolin), Tony Garnier (b)
Donnie Herron (steel guitar, banjo, mandolin, trumpet)
David Hidalgo (accordion, g), George Receli (ds)

December 2008, Jackson Browne Studio, Los Angeles

☆☆☆☆☆☆☆・・・

2026年9月2日水曜日

生クラゲ


最近は、何でも「生」ってつけば嬉しいみたいな風潮があります。

生食パン、って絶対火が通っていて生の訳がない。

生プリン、も同じ。

通常、売っているワカメは緑色してますけど、これも湯通ししているからで、本当の生ならほぼ真っ黒です。

食料品に「生」と冠するのはなかなか難しいところがありますが・・・

これは、たぶん本当に生。赤クラゲです。

ただし、生物学的な「アカクラゲ」は毒性が強いらしく別物で、食用としてでまわっているのは「ビゼンクラゲ」というもの。

・・・だろうと思うんですが、刻んであるだけみたいです。味も付いていません。

つまり、このまま食べても、ほぼ味は無い。

まぁ、もともとクラゲは食感命の食材ですから、それで良いと言えば良いわけです。

ポン酢で食べましたが、すごく美味しいとまではいいませんが、何となく食べて楽しいというものでした。

2026年9月1日火曜日

DYLAN (2007)


2007年もひたすらライブ活動に勤しむボブ・ディラン。ツアー・バンドは「Modern Times」と同じ顔ぶれで、3月から10月まで、休む暇もなくアメリカとヨーロッパで演奏を続けていました。この年唯一のアルバムは10月に発売されたオールタイム・ベスト盤「DYLAN」です。

公式のベスト盤は、「Greatest Hits」第1集が1967年、第2集が1971年、そして第3集が1994年に登場しています。いずれも収録された曲の重複がないという良心的な選曲。そして未発表曲を詰め込んだ「Biograph」は1985年、コロムビア・レコードのアーティスト全体のシリーズとして「Essential」が2000年に発売されています(アメリカ以外の国の独自編集は除く)。

「DYLAN」はCD3枚組で、自らの名を冠するだけあって、この時点での決定版と言える内容です。さまざまなデジタル配信サービスが急速に拡大していた時期であり、各レコード会社は手持ちカタログのデジタル化に精を出していました。コロムビアも再びディランが世間の注目を集めているこのタイミングで、ディランの楽曲のデジタル・リマスターを行っていました。

ディランのことはこれまであまり聞いてこなかったというライトなファンに向けては「Best of  the Best」のCD1枚組というのも用意され、日本ではさらに初回のみライブ音源4曲追加のCD2枚組という形態もありました。本命の3枚組は、特に新曲や未発表音源は含みませんが、布張りボックスという豪華な仕様で、オマケもついてマニアも手に入れたくなるところは商売上手です。いずれにせよ、純粋にディランの歴史を一望できる決定盤として必須のアイテムと言えます。

また同時に、40年前の「Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)」がマーク・ロンソンによって新しく現代風にリミックスされたものが配信され話題になりました。しかもこのニューバージョンのミュージック・ビデオが作られ、いかにもディランっぽい後姿の男性が登場し、これまでのディランの半生を一気に見せてしまうという興味深いものになっています。


11月にはドイツのケムニッツ美術館にて、初の本格的な個展「The Drawn Blank Series」を開催しました。1980年代から90年代にかけて、ツアーの合間に描いたスケッチをベースにした水彩画やアクリル画が展示され評判になりました。刊行された画集は、現在は大変なプレミアがついています。

そして、アメリカでは11月に公開されたのが映画・・・と、言っても安心してください。ディランは今回は出演していません。「I'm Not There」というタイトルで、クリスチャン・ベール、ケイト・ブランシェット、マーカス・カール・フランクリン、リチャード・ギア、ヒース・レジャー、ベン・ウィショーという6人の俳優が別々のディランを投影したエピソードを演じる「伝記」様のストーリー。

ディランは映画の制作を承認し楽曲の使用を認めただけで、基本的に関与はしていません。ただし、自分の本質を理解している映画だと評価しています。第64回ヴェネツィア国際映画祭にて審査員特別賞を受賞、特にブランシェットは多くの映画祭で受賞し、映画としての評判は上々でした。

日本でも公開はされていますが、架空の名前だったり実在の人物の名前が登場したり、時間があちこちに移動したりと、なかなか中身を理解するのは難しいこと請け合いです。確かにそれがディランらしいということなのかもしれません。


Song to Woody
Blowin' in the Wind
Masters of War
Don't Think Twice, It's All Right
A Hard Rain's a-Gonna Fall
The Times They Are a-Changin
All I Really Want to Do
My Back Pages
It Ain't Me, Babe
Subterranean Homesick Blues
Mr. Tambourine Man
Maggie's Farm
Like a Rolling Stone
It's All Over Now, Baby Blue
Positively 4th Street
Rainy Day Women #12 & 35
Just Like a Woman
Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)
All Along the Watchtower

You Ain't Goin' Nowhere
Lay Lady Lay
If Not for You
I Shall Be Released
Knockin' on Heaven's Door
On a Night Like This
Forever Young
Tangled Up in Blue
Simple Twist of Fate
Hurricane
Changing of the Guards
Gotta Serve Somebody
Precious Angel
The Groom's Still Waiting at the Altar
Jokerman
Dark Eyes

Blind Willie McTell
Brownsville Girl
Silvio
Ring Them Bells
Dignity
Everything Is Broken
Under the Red Sky
You're Gonna Quit Me
Blood in My Eyes
Not Dark Yet
Things Have Changed
Make You Feel My Love
High Water (For Charley Patton)
Po' Boy
Someday Baby
When the Deal Goes Down

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