フジテレビの2時間枠の単発ドラマですが、高畑充希と草刈正雄のW主演、オリジナル脚本は岡田惠和。岡田は多くのNHKテレビ小説をはじめ、「最後から二番目の恋」シリーズ、多くの映画を担当したヒットメーカーです。
以前の会社でたまたまヒット企画を出したことで周囲から妬まれ居づらくなった工藤繭子(高畑充希)は、老舗和菓子会社の羊堂本舗の社長(丸山智己)にヘッドハンティングされ、顧客層拡大のための新たに立ち上げられたチームのリーダーとして、会社のイメージアップのためのアイテム開発などの業務を行っていました。
アイテム自体は好評なのですが、和菓子の売り上げ増には直結していないことから、社長は和菓子そのものとの連携した企画を早急に提出して欲しいと言ってきます。しかし、菓子部門の上司は繭子のやっていることに否定的で、顔を見れば嫌味ばかりでとても協力できる雰囲気ではありませんでした。繭子は家に帰ると同居している恋人の小野諒(小瀧望)にぐちを言う毎日で、諒もがんばりすぎる繭子を心配するのです。
8年前に羊堂本舗を定年退職した68歳になる仁井本和夫(草刈正雄)もまた、日々の生きがいを見いだせず妻の文子(原田美枝子)にぐちを言う毎日。たまたま昔の同僚たちと話をしていると、それを聞いていた社長にすすめられて再就職することになりました。
仁井本はかつていた総務部復帰するのかと思っていたら、配属されたのは繭子の部署でした。初対面から繭子は「昔の自慢をして楽しみたいのか、まったくの新人として一から仕事を覚えたいのかどっちですか」と厳しい扱いをします。しかし、仁井本は不慣れなパソコンなども積極的に使えるように勉強して、こどもと同じような年齢の繭子や同僚たちから少しずつ信頼されるようになります。
新しい企画の〆切が近づくものの一向にアイデアがまとまらない繭子は、家に帰ると口癖のように言っていた「疲れた、疲れた」すら言えないくらい追い詰められていました。再び上司に呼び出され、企画はどうなんだと責められ、社長に媚びを売っているんだろうと言われる繭子でしたが、仁井本のことまで悪口を言われついに「ゲス野郎!」と怒鳴って殴ってしまうのでした。
定年後の人生をどう過ごすかは人それぞれだと思いますが、中には仁井本のように生活の張り合いをなくしてしまう人もいるかもしれません。そういう方が、新しい環境で働く場合、やはり「過去の栄光」を表立って持ち出すことは戒めないといけない。でも、「過去の栄光」はその人のベースとして、偉大な経験値になっているわけで、時代が変わってもいろいろな場面で役に立つことを教えてくれる作品です。
繭子は実力はありますが、経験は少なく自分に対しても絶対的な自信を持っているわけではありません。ですから、自分に対する誹謗中傷はいくらでも耐えることができるのですが、その矛先が自分以外に向いた時はそれをはっきりと否定する正義感を持っています。そして、詰め込み過ぎる思いを、うまく吐き出し受け止めてくれる恋人の設定が絶妙です。
性別、年齢、立場などが対照的な二人の主人公を通して、少しだけ生きていくためのヒントみたいなものを感じ取れれば十分に見る価値のあるドラマです。連続テレビドラマほど長すぎず、映画ほど気負っていないので、てきぱきとした進行がちょうどよい作品になっています。