2025年6月15日日曜日

浜の朝日の嘘つきどもと (2020)


あれ、ちょっと前にこのタイトルあったやん!! と思った方、ちょっと違います。ちょっと前のは2021年で、今回は2020年。正確には、ちょっと前のは映画版で2021年9月公開で、今回のはテレビ・ドラマ版で2020年10月の福島を皮切りに、2021年1月までに全国のローカル局で順次放送されました。

どちらも福島中央テレビの開局50周年として製作されていて、監督・脚本はどちらもタナダユキ。映画版は主役は高畑充希、準主役として大久保佳代子が重要な役で登場しました。ドラマ版では、高畑充希と竹原ピストルのW主演という形になっています。ストーリーの時系列では映画が先で、そのラストシーンがドラマ版の導入部につながっています。

福島県南相馬にある朝日座は古い映画館。突然やって来た茂木莉子と名乗る女性(高畑充希)の活躍で、何とか閉館の危機をくい止めることができましたが、困難な経営が続いています。ある日、朝日座の前に一人の男性が立っていました。彼は川島健二(竹原ピストル)という無名の映画監督で、唯一任された商業映画が大コケして、失意のあまり死に場所を探していたのです。

ここでもう一度だけ映画を見て感動したら死ぬのをやめようと思う川島に対して、莉子は900円の入場料のところを3500円とふっかけ、いい加減な嘘を織り交ぜてなんで高いのか説明します。川島は「もう俺はお金はいらない」と言い1万円を置いて館内に入るのでした。

映画を見終わって「感動しなかった」川島が出てくると、支配人の森田(柳家喬太郎)が話しかけてきます。川島は問われるがままに、何でここに来たのか話ます。そこへコンビニに行っていた莉子が戻って来て、皆で死に場所を探しに行こうということになります。しかし、山でも海でもしっくりこないという二人に振り回される川島でした。

最後に二人は、朝日座常連で映画愛が強い資産家未亡人の秀子(吉行和子)を川島に紹介します。秀子は川島の唯一の作品を見たことがあるといい、ダメな映画だったけど主人公が「本当にやりたいことをしなさい」というところだけは素晴らしいと褒めました。実はその場面だけが、川島が自分の意見を通したシーンだったのです。

秀子は「朝日座を使う」、「この町のためになる」、そして「自分がやりたいことをやる」という条件を出して、自分がスポンサーになって川島に映画製作を依頼します。莉子、森田、秀子らのぼんやりした説得により死ぬのをやめた川島でしたが、そう簡単には映画にするようなストーリーを思いつかず、それはそれで苦しむことになるのです。

公開順だとこのドラマが先ですが、これだけだと設定が謎だらけ。皆いい人なんですが、言っていることをどこまで信じていいのかわからないくらい自然な嘘を並べ立てています。このあと、前日譚となる映画を見ることで、すべてのやり取りに合点がいくという仕掛けになっている。自分は先に映画を見てしまったんですが、そうするとドラマのやり取りは自然で、むしろセリフにはない深い所を感じることかできて、それはそれで楽しい。

タイトルの「浜の朝日」は莉子の本名である浜野あさひと朝日座のことですが、「嘘つきども」というのは登場人物全員のことで、嘘をつくのは「映画の本質」ということです。町の人々は辛い現実を乗り越えるために「嘘」を使い、人生そのものをあたかも一本の「映画」のように楽しんでいるのかもしれません。

これは是非、ドラマと映画をセットで見るべき作品だと思います。それは、どちらもタイトルが同じというところにも、タナダ監督の強い意図が見て取れます。現在でも、ブルーレイ・ディスクあるいは各種の配信で視聴可能なので、コロナ禍で埋もれさせてはいけない優れた作品として強くお勧めします。

ちなみに川島が朝日座を始めて訪れた時に、上映していたのは「天使にラブソングを」と「ベルリン 天使の詩」の二本立て。このチョイスは映画好きならうなってしまうこと請け合い。どちらも生・死・嘘のキーワードが浮かんでくるところに監督のセンスが光ります。