2025年6月1日日曜日

新幹線大爆破 (2025)


新幹線大爆破」は50年前、1975年に名優・高倉健の主演で作られた映画で、任侠路線からの転換を模索していた高倉が、安いギャラでもいいから出演したいと熱望して犯人役を演じたもの。当時ハリウッドで流行していたパニック物を日本に持ち込んだ先駆けとしても評価され、JR(当時の国鉄)が協力拒否したものの、佐藤純爾監督らの様々なアイデアによって、かなりのリアリティを再現できたことも評価されています。

すでに安全神話が成立していた新幹線が、制御不能の恐怖の走る箱と化すというアイデアは監督を中心としたスタッフの話し合いで煮詰まっていきました。新幹線の速さが革新的で日本の高度成長の到達点のような憧れを持って喜ばれていた時代ですから、80km/h以下にスピードを落とすと爆発するという、もう止まることができない状況は多くの日本人に根源的な恐怖を植え付けたのでした。

今回、半世紀を経て再び同じタイトルでNetflixがリブートしたわけですが、今風の雰囲気を取り込んだ単純なリメイク作であれば、二番煎じ以上の評価はされなかったかもしれません。しかし、一見、前作と同じように事件が進行するものの、以前の事件が新たな事件の引き金となっている内容で続編的な色を濃くしたこと、そして今回はJRが全面的に協力したことで高く評価できる作品になっています。

監督は「シン・ゴジラ」、「シン・ウルトラマン」の樋口真嗣、脚本は中川和博・大庭功睦です。また草彅剛、のんという、ある意味芸能界で一度排斥されながら、地道に活動し再評価された二人の出演も話題性だけでなく評価されるポイントになっています。

前作では高倉を主演に迎えたこともあり、犯人側の視点が盛り込まれ、高度成長の日本の中でその波に乗り切れなかった人々の悲しみが取り上げられていました。しかし、今作の特徴は、東北新幹線が100km/h以下になると爆発するという究極の恐怖に集中するため、あえて人物像には深入りしていないところにあります。

人を描いていないという批判はおそらく監督らは覚悟していたと思いますが、確かに前作をしらない人に対しては「何故新たに同じような事件が起きたのか」という情報不足は否めない。本編の中でも昔の事件について最小限の紹介はされていますが、そこを理解するためには数分間のあらすじの挿入では不十分ですから、はっきり言うと前作を絶対に見てから本作を見ることを強くお勧めします。

緊迫した事態に対応する実直(すぎるくらい)な車掌に草彅剛、スピードを緩められずジェットコースターのような車両の運転手にのん、危機管理能力と決断力がある総括司令長に斎藤工、乗客にはスキャンダルからの復活を狙う国会議員に尾野真千子、SNS成金のYouTuberに要潤、修学旅行の帰りの女子高校生に豊嶋花、ヘリコプター墜落事故で多数の死傷者を出して社会的に糾弾される社長に松尾諭などが出演しています。

JRの協力もありますが、CGなどの映像技術の進歩により、止まれない密室となった新幹線の映像は迫力があり、それは前作の比ではありません。俳優たちの演技も素晴らしく、ドラマとしての格を何段階も上げることに成功しています。

ただし、やはり前作を知っている者からすれば、それを超えているとまでは言えないし、見ていない者には理解しずらいところが多い作品だとは思います。それはある程度しょうがない部分で、現代風のエンターテイメントとしては評価されることは間違いありません。