コメディ系の印象が強い大泉洋にとって、大泉洋史上最高にかっこいい演技が見れる映画・・・という触れ込みは伊達ではありませんでした。よくある江戸時代よりも古く、さらに戦国時代に突入する前の室町時代中期の時代劇です。
第8代征夷大将軍である足利義政の悪政のもと、民衆は貧しさを極め、折からの大飢饉によって餓死するものが続出するなかで、寛正3年(1462年)、蓮田兵衛を首魁とする京の都を急襲する「寛正の土一揆」が発生しました。このエピソードを膨らませた垣根涼介による歴史小説を原作として、「あんのこと」の入江悠の脚本・監督により映画化された作品です。
民の飢えと貧困が極限に達しようかという時代、将軍、大名は富をむさぼりつづけていました。傭兵を率いて都の警備を請け負っていた骨川道賢(堤真一)は、悪徳金貸しの用心棒をしていた才蔵(長尾謙杜)を捕えたものの、若すぎて扱いづらいため、古い悪友である蓮田兵衛(大泉洋)に引き渡します。
浪人者の兵衛は、腕も立ちますが、あちこちで貧しく苦しむ農民たちを助けて回っていて、時が来れば一斉蜂起するべく準備をしていたのです。棒術が得意だった才蔵は兵衛についていくことを決意しますが、兵衛はまだまだ未熟な才蔵を自分の師匠、唐崎の老人(柄本明)に預けます。
1年間の辛く危険な修行の末、才蔵は立派な兵法者となり兵衛のもとに戻って来ます。兵衛はいよいよ立ち上がる時が来たと感じ、慕ってきた多くの浪人者、これまでひたすら我慢に我慢を重ねてきた農民らを率いて一揆を起こすことを決断します。これらの不穏な動きはスパイによって幕府にも知らされ、骨川道賢は兵衛のもとを訪れ事を起こせば容赦はしないと伝えるのでした。
兵衛は道賢に一揆の日時を教えますが、農民たちの借金の証文を焼くことが一番の目的であるから、自分たちと戦うのは少しだけ待ってほしいと頼みます。しかし、兵衛は予告した日時よりもさらに早くに立ち上がり、一揆の群衆は京の町になだれ込むのでした。
兵衛を慕う高級遊女に松本若菜、足利義政に中村蒼、民を人とも思わない悪大名に北村一輝らが登場しています。江戸時代がジョン・ウェインの正統派西部劇ならば、まだ形が定まらない混沌とした室町の世界は、まさにマカロニ・ウェスタンです。ひたすら搾取される民衆のために立ち上がる「荒野の用心棒」の姿が、まさに兵衛に他なりません。
とにかく大泉洋がかっこいい。それに尽きる。大勢のぐちゃぐちゃの中を駆け抜ける兵衛と才蔵の殺陣のすさまじいことといったら、他ではあまり見たことがありません。佐藤健の剣心は現代風のスタイリッシュな殺陣でしたが、ここでは泥臭いけど疾風のような殺陣は「木枯らし紋次郎」に近いかもしれません。
しかし、そのあとでしっかりと兵衛と道賢の一対一の勝負にも決着がつくところもなかなかグッとくる。本当に「こんな時代劇を見たかった」と手を打ちたくなる作品でした。