チャイコフスキーの協奏曲というと、ピアノとヴァイオリンが有名で、まぁクラシックファンでなくても、たいてい聞いたことがあるものです。通の人は「チャイコのピーコン(Piano Concerto)」という呼び方をしていますが、「ブイコン(Violin Concerto)」という言い方はあまり使わない。
いずれも、かなり印象的なオーケストラの序章から始まって、1分くらいするとソロ楽器が颯爽と登場するわけです。ピーコンの場合は全体的に派手さが目立ちますが、ヴァイオリンではややじっくりと盛り上がっていく雰囲気があります。
どうもチャイコフスキーがヴァイオリンは得意ではなかったことが関係しているのかも。チャイコフスキーは自分ではヴァイオリンを弾かなかったらしく、いろいろ知人からアドバイスをもらって完成させたそうです。
完成した譜面を、当時高名なヴァイオリン演奏家であったアウアーという人に献呈したところ、こんなのは演奏不能といわれ相当へこんだそうです。挙句の果て、アウアーは難しい部分をばっさりと切り捨てて演奏して、比較的最近までそのアウアー版が標準として知れ渡っていたというのも驚きです。
さて、女流中堅どころのヒラリー・ハーン。今年の最新アルバムでは初めてチャイコフスキーを取り上げました。もちろんチャイコフスキーの原典版。とはいえ、最近の録音はアウアー版はほとんど無いようですから、それを売りにしてもしょうがない。
ここではヒグドンという現代の女流作曲家がハーンのために書き下ろした協奏曲とのカップリングというのがポイントで、新旧ふたつの協奏曲のコントラストがなかなか楽しいわけです。
それにしても、チャイコフスキーという作曲家、本当に美しいメロディを書く人です。当時のロシアの作曲家の中では、かなり甘い旋律に走るほうではなかったかと思います。ある意味、ポップスに近いかもしれません。
まぁ、誰が演奏していても十分に楽しめるのは、やはりもとの曲が良くできているということが大きいのだと思いますが、誰もがたいてい録音しているのでちょっとずつ聴き比べてみたいと思うわけです。