小学校の時、アポロ11号の人類初の月面着陸はこどもながらに大変なインパクトを与えてくれました。この映画は、そこに至るアメリカの宇宙開発の歴史を物語として見せてくれるのです。
基本的なストーリーは実在するテストパイロットだったチャック・イェーガーの伝記に基づいて進行するのですが、もちろん映画用にフィクションもかなり盛り込まれており、とにかく3時間の長丁場ですが飽きることなく一気に見ることができます。
音速を超えることに命をかけていた時代から、宇宙へ飛び立つマーキュリー計画、そして月にたどり着くためのアポロ計画へと、アメリカ威信をかけた政治的思惑も加わったプロジェクトが進行していきます。
その中で年老いて表舞台から去っていく者、事故で命を落とす者、栄光をつかんで絶頂に上り詰める者、いろいろな人間模様が交錯し壮大なドラマとなって、見ている者を感動させずにはいられません。
監督のフィリップ・カウフマンは、どちらかというと脚本家で監督作品としては他に見るべき物はない。実はクリント・イーストウッドの「アウトロー」(1976)の監督に抜擢されていながら、あまりにしょうもなく首になった過去があるのです。
そういう意味では、脚本がよかったのか、プロデューサーの手腕のおかげなのか、はたまた出演者の演技力にささえられたのか、カウフマン監督としては奇跡の一作ということができるかもしれません。
実際、出演者がいい。男性陣はサム・シェパード、スコット・グレン、エド・ハリス、デニス・クエイド、女性陣はヴェロニカ・カートライト、バーバラ・ハーシーといった個性的な当時なら全員が助演賞をとれそうな人ばかり。特にイェーガー役のシェパードがいい。そして、家を出たら(死んで)帰ってこないかもしれない妻を演じるハーシーもいい。ビル・コンティの雄大なテーマ曲も悪くない。
いずれにしても、60から70年代のベトナム症候群から脱却し、壮大な夢の実現 - アメリカン・ドリームを高らかに謳いあげた一作といえるでしょう。このあと事実上の続編的な「アポロ13」を生み出すことになります。
ただし、一方で「地獄の黙示録」、「デア・ハンター」、「プラトーン」といった病めるアメリカを客観的に見つめなおす作品に注目が集まることが多く、ある意味ノー天気なこの映画は片隅に追いやられた感があるのも事実でしょう。