ここ10年くらいでしょうか、トラウマ trauma という言葉が一般的に使われるようになりました。トラウマというのは、整形外科的には外傷、つまり骨折とか脱臼とかのいわゆるケガをさす英語です。
ところが、一般に使われている場合は「心の傷」という意味に限定されている。肉体的なキズと思っていた言葉が精神的なキズの意味になって、自分としてはその辺のギャップがけっこう気になっていたことです。
誰かが言った、何気ない一言。これが、誰かを元気付けることもあるでしょうし、逆にひどく傷つける場合もある。心に残る一言は、良い場合も悪い場合もあるわけです。
例えば自分の場合、ある人に「どうせ君は人生で負けたことなんてないでしょうから」と言われたことがありますが、これはけっこうトラウマになる一言でした。医者は社会的地位もあって、苦労なんて知らないでしょうというような意味で言われたと思ったのです。
ちょうど開業して半年過ぎて、患者さんは来ないしお金もほとんど底を着いて、クリニックの賃貸料も払えず待ってもらっうことにした時期でしたので、かなりこの一言はこたえたのです。
そのとき思ったのは、「人生で負けるということは自殺でもするようなことだろう。行き続けているからには、人生で敗者になる者なんていないさ」ということでした。
まあ、それはそれでへりくつみたいなものでしょうけども、逆に「負けるわけにはいかない」という気持ちを持たせてくれたということもあるんでしょうね。
まだまだ勝利者というにはほど遠い状態ではありますが、今から考えると良い意味での「心に残る一言」だったと思うわけです。