70年代のビル・エヴァンスは、実は人気にもかげりが見え始めていました。今から考えると嘘みたいですが、60年代にピアノ・トリオとして活躍しすぎたのか、聴く側からするとマンネリ感が出てきていたのでしょうか。
エヴァンス自信も、そういう気持ちからか方向性をやや見失っていたかのように、いろいろなことに手を出しています。例えば、エレクトリック・ビアノにてを出す。ビッグ・バンドとの競演。ベース、ハーモニカとのデュエット。トニー・ベネットの歌伴などなど、出てくるアルバムに統一感がありません。
過去の評価としては、いろいろなことにチャレンジしていく意欲があふれ続けている時期という見方も成立しますが、リアルタイムにはエヴァンスは何をやりたいんのだろうと疑問を感じることが当然あったわけです。
日本人は昔からピアノ・トリオが好きと言われていますから、日本での人気はそれほど悪くは無かったように思いますが、今では再評価によってそれぞれのアルバムには一定の成果が認められています。しかし、中山康樹も絶賛するように、この時期のベストとしてチョイスするなら死後に発表されたこれ。
このアルバムは、レコードで両面で30分強と短め。CD時代からすると、えらく短い感じがしますが、その中に凝縮された演奏のすばらしさ、完成度の高さは絶対的なものです。
一つ一つの曲の完成度もさることながら、アルバムとしての全体的な融合感は完璧で、このあたりはプロデューサーの力量も無視できません。