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2012年7月1日日曜日

Bill Evans / California Here I Come


どうもビル・エヴァンスについて何か書こうとすると、いい言葉が思いつかないというか、なんて表現して良いか悩んでしまうわけです。一般的にエヴァンスの演奏は「繊細でリリカル」というような表現が使われ、絶えず周りに「死の雰囲気」をまとった哲学的な側面を臭わせていたりするから、よけいにややこしい。

ジャズ評論家の寺島靖国のエヴァンスについての文章に、「そうそう、まさにそんなんだよね」と膝をポンっと叩きたくなるところがあったので、ちょっと長くなるけど引用してみたいと思います。

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・・・僕もそうですが、まず最初に、曲のことを口にするのが恥ずかしいという意識がある。男一匹、演奏技術のことでひとくさりいわないと、ジャズがわかっていないんじゃないかとというふうに見られるんじゃないかという心配があります。それはやはり、「ジャズに名曲なし、名演奏あるのみ」という、昔たてられて亡霊的な言い伝えというか建前が未だに尾を引いていて、曲というのは演奏の素材であるという見方が大半を占めているからでしょう。

・・・僕は正直言って、最初にエヴァンスを耳にしたときは本当にわからなかった。たぶん、極端に言うとメロディが素直に入り込んでこなかったと思うんです。漠然としているんですね。・・・最初は理解しにくいけれど、じわじわとよさがしみ出てくる。そうなるともうエヴァンスから離れられなくなる。そう思わせたのは、やはりエヴァンスの知性です。エヴァンスを聴くと、自分がインテリになったような気がするんですよ。心地よい難解さというか、いつか自分の血になり肉になるという予感がある。

・・・たとえば、ウィントン・ケリーのレコードをかけたあとは、何となく猥雑になるんですよ。そのあとにエヴァンスをかけると、急に空気が澄んでくるというか、すごくインテレクチュアルな、ハイグレードな雰囲気になってる。そういう「エヴァンス効果」って絶対にあるんですよ。

・・・メロディを見え隠れさせて、メロディそのものを昇華させていくという、そういう表現手法ですね。テーマとアドリブなんていうことは、エヴァンスは特に意識していないと思うんです。とにかくエヴァンス的に美しいメロディを表出すると言うこと。そこがまたエヴァンスの魅力で、隠れていてわからない部分があって、それを解明したいという気持ちが出てくるんです。

(1989「ビル・エヴァンス/あなたと夜と音楽と」より)
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寺島氏はもとはジャズ喫茶の店主で、まさにジャズ・ファンの代表選手みたいな人ですから、これがまさに一般のエヴァンス好きの言葉にならない気持ちを代弁していると思います。このあたりは、もともと職業的ジャズ・ファンの中山康樹とは一線を画するところ。

そんな気持ちを整理した上で、あらためてビル・エヴァンスを聴いてみると、寺山氏の言うようにまた新たな面をいろいろ見つけることができるんですね。

60年代後半の名盤としては"Trio '65"が一般的にはあげられることが多いようですが、あえて別のものを探してみると、タイトルにあげたアルバムが浮上してます。

1967年のヴィレッジ・バンガードでのライブ。後から、同時に演奏された大量の録音が登場していますが、その中からベストといえる15曲が収録されています。

もともとエヴァンスをスターにしたのは、1961年のヴィレッジ・バンガードでのライブ。エヴァンスにとっては、ホームグラウンドと言える場所で、生涯を通じて度々出演し、ライブ録音も大量に残されています。

1967年のライブでは、ベースはエディ・ゴメスですが、ドラムがフィーリー・ジョー・ジョーンズでややリズムが元気良すぎというところもありますが、それがまたエヴァンスを盛り立てていつになく張り切っている感じがします。マイルスのブラックホーク盤のような、比較的わかりやすいのりのりのジャズをエヴァンスで楽しむのにはもってこい。