2026年9月8日火曜日
The Great American Songbook
これは単一のアルバム名ではありません。CD1枚組が2つ、CD3枚組が1つ、合わせてCD5枚分の3つのアルバムの音源をまとめて、あえてこう呼ぶことにしました。それぞれのCDに10曲ずつ、計50曲あります。
その理由は、実はこれらのアルバムはボブ・ディランの自作曲は含まれないどころか、アメリカの有名なポピュラー音楽のヒット曲ばかりを集めたもので、まさに究極のカバー曲集です。「Great American Songbook」はアメリカのポピュラー音楽の標準的名曲群を指す一般的な用語です。
これまでも、カバー曲だけのアルバムはありますが、それらは他人の曲をディランの側に引き寄せたもので、原曲を知らなければディランが作ったように聞こえるものでした。ところが、これらは違います。ディランからヒット曲にできるだけ近づいたもので、どうしたって空気感がまったく異なる世界です。
日本でも、一頃ベテラン歌手が往年の他人のヒット曲をカバーするアルバムが流行った時期がありますが、最初は楽しめないことはないのですが、いくつも出されるとさすがにもう結構ですと言いたくなる。
対象となるのは、
Shadows in the Night (2015年2月リリース)
Fallen Angels (2016年5月リリース)
Triplicate (2017年3月リリース)
最初の「Shadows in the Night」は、フランク・シナトラのヒット曲のレパートリーの中から選ばれています。曲本来の姿を露わにして、名曲が名曲たる所以を再確認させてくれたとアメリカ国内では比較的好意的な意見がありました。
次の「Fallen Angels」も同様のコンセプトで、いずれも録音自体は2014年にツアーの合間を縫って行われています。こちらもアメリカでは評判は悪くありません。
ディラン初のCD3枚組の「Triplicate」は、2014年から2016年に断続的に録音されています。シナトラにこだわらずオール・アメリカンの有名曲を集めたもので、基本的にいずれも英語圏では概ね好意的にみられています。ホーン・セクションが加わり、スイング・ジャズ色が強まり、またウッド・ベースも強調されています。
日本では、これらの原曲に対して愛着があるファンは限られます。ジャズのスタンダードになっている曲が多いので、自分のようなジャズ好きな者にはメロディは多少馴染みがあるものの、さすがに歌詞についてはまったくの門外漢。
比較的まともに歌っているので、ボーカル・アルバムとしての面白さはあるものの、やはり「古い曲の再発掘」というような価値観は持てないというのが正直な感想です。ましてや、さすがに3作連続というのは英語圏でも飽きられた部分が無いわけでもない。
いつものツアー・バンドのメンバーが中心になって伴奏についていますが、かなり40~60年代のクラブのステージでの演奏を思わせるものなので、こちらもいつもの勢いは感じにくい。
通常のファンはあえて聴かなくても問題はないように思います。ただし、ディランが自らのルーツを見直して再構築するという意義は、これらのアルバム制作の動機として重要なので、ディランのマニアは避けて通れません。また、普通にシナトラやビング・クロスビーなどのファンの方は、楽しめるアルバムだと思います。
