2008年8月29日金曜日

整形外科へのお誘い

ちょっと、そこの研修医の方。まだ、何科の医者になるか迷っているの?
だったら、ちょっと読んでいってよ。

まぁ、もっとも親が医者で、同じ科に進むっていうのは、いいようでよくないよね。自分もそうだったから、何となくわかるよ。親を見ていると、その科のいいところも悪いところも見えちゃうからね。

親を超えるのはこどもに課せられた期待だから、同じ土俵で勝負しにくいところもあるんだよね。でも、自分が親になって見ると、自分ががんばっているのはこどものためなんだよね。こどもが同じ道に進んでくれれば、嬉しくないわけがない。

親が医者じゃないなら、自分がやりたいことをやればいいわけで、話は簡単。でもね、やりたいことを何十年も先まで見通せる人はいないんだよね。いろいろな医者に何でその科を選んだの、という理由を聞いてみると、意外とたいした理由じゃないことが多いんだよ。

何を隠そう、自分もたまたま友人に付き合って整形外科の教授室にいっただけなんだよね。そしたら、友人がこいつも整形外科に入りますって勝手に紹介しちゃったわけ。

やりたいことっていうのは、後から出てくるんだよ。どんな科でも、だんだんわかってくると、やりたいことが必ず見つかるもんで、最初からあまり気張って考えてもしょうがないかな。

でもって、整形外科なんだけど。いいよ、整形外科は。まず、外科系ということ。内科に比べて軽く見られがちだけどね、でも患者さんを本当に治すのは医者だからね。

内科の先生には怒られてしまうかもしれないけど、正しい薬を選択するのは医者の能力だけど、薬が効くかどうかは患者さんしだいだよ。

その点、手術というのは医者の個人の能力。特に整形外科では、ばらばらになった骨をきちっとまとめて、患者さんがちゃんと社会復帰できれば、それは医者の力だと大威張りできるんだよ。

もちろん、うまくいかないのも医者の能力であることがあるわけだから、そこんところの責任をしっかりと背負っていく覚悟は必要だよね。患者さんは50点を望んでいるわけじゃなくて、いつでも100点満点を期待しているのはどの科も同じ。

救急は最近は忙しくて大変だと嫌われているようだけど、若いときにがむしゃらにやらなくてどうするの。外傷が来れば、整形外科と脳神経外科と腹部外科が活躍するんだよ。

血だらけのけが人を助けるのは戦場のような場合があるけど、そういうのを経験しないで医者になれると思ったら大間違い。そういうところでトレーニングしておかないと、本当に後で困ると思うよ。

もちろん、それだけじゃない。リウマチという病気があるけど、内科でみるのか整形外科でみるのか医者も患者さんも悩むんだよね。治療は薬が主体だし、最近は副作用をしっかり見ていかないと危険な薬をどんどん使うから、内科的な部分が多くなってきた。

でも、勉強すればいくらでも知識は増やせるんだ。でも、リウマチの治療ではリハビリテーションや装具が大事。それにいざとなったら、手術も大事な治療方法なんだよね。

手術は実技だからね、知識だけではできない。やはり、経験が無いと無理だと思うよ。自分が整形外科医だから言うわけじゃないけど、ちゃんと勉強して薬を使いこなす手術もできる医者がリウマチでは必要なんだよね。

それに高齢化社会になって、老化現象でのいろいろな手足腰の痛みを減らして生活能力を維持するのも、整形外科の大事な仕事だよね。

でも、逆に赤ちゃんだって診るんだよ。先天性の問題も少なくない。こどもの怪我や障害だっていろいろあるし、整形外科は全年齢が対象になるんだよ。その気になれば、本当にいろいろな患者さんがいてやることは山ほどあるんだ。

ただ、開業するときは注意が必要かも。というのは、整形外科の患者さんの診療報酬は高くない。一人あたりの診療費を患者単価というけど、内科なら4000円~5000円、だけど整形外科は2000円~3000円だから、内科の倍の患者さんがこないと経営上はつらい。

さらにね、診療所のスペースも、内科なら30坪もあれば十分だけど、整形外科は最低でも50坪くらいないとできない。一般的には内科なら1日に30~40人の患者さんがくれば経営は大丈夫といわれているけど、整形外科は80~100人は必要なんだよね。

まぁ、うちなんてやっと60人だから、いまだに必死に当直のバイトしているわけだけど。まあ、それはいいとしても、とにかく今の医療事情では先が見えないから、何科で開業しても大変だよね。

まぁ、少なくとも自分の医者としての最終形態だけはある程度考えておいたほうがいいんじゃないかな。

とことん大学のようなところに残って、研究をがんばって多くの患者さんを治すための治療法を開発していくのか、あるいは市中病院や自分の診療所を持って目の前の一人一人の患者さんを治していくのか。コンピュータでいえば、プログラマーかアプリケーション・ユーザーかみたいなところかな。

まぁ、整形外科は絶対面白いから、是非考えてみてよ。