2019年9月3日火曜日

Sir Simon Rattle BPO / Bach Matthaus-passion (2010)

クラシック音楽のDVDは、どう頑張っても地味。そもそも燕尾服を着た白黒の楽団員が多くて、動きも少ない。派手派手なレーザービームが飛び交うことはありません。

アルゲリッチのビデオなんかだと、白髪の多さと画質の良し悪しで年代が違うなとは思いますが、基本的にどれをとっても大きな差はありません。

もちろん、オペラともなれば、オケよりもいろいろな衣装を着て演技する歌手がたくさん映っています。

とは言っても、劇団☆新感線の舞台DVDのように多数のカメラワークを駆使しているわけではないので、ずっと観客席から平面的に観ているようなものが多くて、ちょっと退屈です。

その中でも、ベルリンフィルの最近のコンサート映像作品は、いろいろと工夫が感じられます。このあたりは、前任者のサイモン・ラトルの功績が大きいようです。

特に完全に固定観念を崩されたのが、バッハの「マタイ受難曲」と「ヨハネ受難曲」のビデオ。

宗教曲ですから、場所は普通は教会かコンサートホール。きちんと整列して、ひたすらイエスの悲劇の生涯を謳いあげていくわけで、音楽としては大好きですが、見ていてそんなに面白いはずがない。

ところが、ラトル&ベルリンフィルは、なんと歌手たちにオペラのように演技をさせました。もともと劇的な生涯の話ですから、オペラ的な処理は可能な題材であることは間違いない。

これはアメリカ人で、ユニークなオペラ演出で評価が高いピーター・セラーズ(英の俳優とは別人)の仕掛けなんですが、歌手陣の動きが大きく見ていて飽きません。

特筆すべきはエバンゲリスト。エバンゲリストは宗教曲では、ト書きを音楽にのせて説明する役割で、ドラマで言えばナレーター。

ところがここでは、主人公のイエスは離れた場所で歌うだけで、他の歌手たちはエバンゲリストをイエスに見立てて演技をしてくるのです。一番出番の多いエバンゲリストが、実質的に舞台の主役としていきいきとしてくる。

エバンゲリストを演じるのは、この役どころではお馴染みのマーク・パドモアですから、歌唱については何の不安もありません。マグダレーナ・コジェナーがマグダラのマリアで、宗教曲としては実に妖艶にアリアを歌い上げます。

演奏人も、それぞれの歌手と一対一に絡むようなところが面白い。ベルリンフィルですが、人数を絞って古楽的な編成も好感が持てます。

特に注目なのが、ガンバのソロでゲスト出演したヒレ・パール。パールは独特の雰囲気を持っていて、マタイの中にはまり切った感じが素晴らしい。

さらに有り難いことに、日本語字幕がついているので、全体の話の流れもわかりやすく、すでにいろいろなマタイを聴きまくった人にも、初めてマタイに接する人にもお勧めしたい一品です。