レコード(またはCDでもいいんですが)の名盤というのは、だいたい評論家諸氏の評価や一般の売り上げなどの要素で決まり、古いものほど定番として不動の地位を確立しているものです。
ショパンのエチュードと言えば、昔のものならコルトーの演奏、新しいもののだったらポリーニ。紹介されるものと言えば、いつでも同じ。さすがに、定番ばかりだと、すぐに蒐集は行き詰まってしまうものです。
何しろポリーニの録音は1972年。もう40年だっているわけですから、その間にいくらでもすぐれた演奏が出てきているはず。さすがに殿堂入りで、飾っておくだけにして、もっともっと新しいものに目を向けてみたい。
ベートーヴェンの32のピアノ・ソナタについても、同じ事が言えるわけです。すべてを聴き通すには1日がかり。昔のレコードだったら20枚くらいは必要でしょう。CDなら8枚から10枚くらいでおさまるし、何しろ値段がデフレですから、全集をそろえるのもだいぶ気が楽です。
だいたい、バックハウスの50年代前半のモノラル録音が正統派の全集として評価されています。歴史的には初めて全集とした30年代のシュナーベル。可哀想なケンプは下手と言われ、アラウも若い頃はつまらないと評される。
21世紀になってから、なかなか素晴らしい演奏もあるんですけどね。一番のお気に入りが女流のメジューエワの演奏。ロシア出身ですが、日本に居を構え活躍していて、若林工房から優れた演奏をいくつも出しています。
もともと、比較的女性らしい細やかな表現が得意で、昨年のショパンイヤー(生誕200年)には続けざまに美しいショパンアルバムをいくつも出しました。しかし、その前に2007年から2009年に制作したのがベートーヴェンの全集でした。
女性らしい微細な色づけとともに、女性にしては非常に力強い打鍵によって、強力な音楽の推進力を表現してくれたと思います。超メジャーレーベルではないため、世界的な名盤として認知されにくいかもしれないのが残念です。
メジューエワは、今年からはシューベルトに取りかかっています。こちらも、大変に期待大のシリーズで、ますます目が、いや耳がはなせないことになりそうです。