上手にも 下手にも 町の一人医者
昔の人はうまいことを言ったものです。患者さんは、病気やケガで困ったときには、とりあえずいろいろな情報をもとにどこかの病院にいくわけです。しかし、どんな医者かは、わからずかかるわけですから、けっこう大変なことです。
しかも、保険医療の仕組みや診療報酬点数制度というのは複雑で、我々でも時によくわからないことも少なくありません。
これは、レストランで味も値段もわからずに、注文をするようなもので、けっこう勇気がいることですね。とりあえず、近場に病院が一つしか無ければ、あるいは医者が一人しかいなければ、しょうがないというあきらめにも似た境地で開き直りもありますけれど・・・
実際、自分がクリニックをもっている横浜市都筑区というところなどでは、クリニックはごまんとあるわけで、患者さんはある程度選択をすることができます。医療は医者と患者さんの共同作業ですから、なちょうど気が合う医者を探すことができれば"BINGO !!"という感じでしょうか。
自分の場合は、ある程度患者さんに合わすこともしているつもりですが、医者としてこれだけは譲れないと思っている部分も当然あるわけです。
例えば、診察中に自分の携帯電話の着信があると平気で話を始めてしまう人。これは、絶対に許しません。基本的なマナーもの問題です。仮にそれが年上の方でも、それはルール違反だとはっきり申し上げます。
一方、困ったことがあるといつも相談に来てくれるような方は、患者さんからすれば自分と合うと思っていただいているわけですから、これは嬉しいことです。待合室に多少やとりがある時などは、世間話などをしたりすることもしばしば。
今日は、いきなり待合室の隅っこに開業以来置いてある京都の本をほめられました。その本を見ていたら、急に京都に行きたくなったというわけです。診察が終わって、一度診察室から出たのですが、すぐに戻ってきて、明日京都に行ってくると言うのです。なんか楽しくなって、本を貸すことにしてしまいました。
こういうところは、なかなか大学病院などの外来をやっていてできることではないわけで、開業医だからこそできるある種の楽しみみたいなものなんでしょう。
この前、新しい関節リウマチの患者さんが来られたのですが、検査をしてみると病気のコントロールがついているとはいえない状態でした。リウマチの薬は重篤な副作用がしばしば出ることがあるので、しっかりと理解してもらった上で治療をしたいということを一生懸命説明をしたつもりです。
ところが、話の途中で「そんなことはどうでもいいから、薬だけ出してくれればいい」と言われてしまいました。これは、自分としては医者としての理念に合わないわけで、何とか話を最後まできいてほしいと頼んだのですが、さっさと席を立って「もう、いい」と言って出て行ってしまいました。
これは、完全に患者さんが自分を拒絶したわけですが、自分もこういう患者さんは困ると感じたわけです。でも、後から考えると、治療をしっかりとすべき状態があったわけですから、それでも何とか説得できなかったのかと後悔の念が残ってしまいました。
そんなわけで、つくづく医者と患者の関係というものは難しいものだと、今更のように思うわけなのです。