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2017年9月5日火曜日

A.S. von Otter / B a c h

通常のオペラ作品では、ソプラノが主役であることが多く、より低い声域をカバーするメゾソプラノは、どちらかというと存在感のある助演女優という感じ。

16~17世紀には、こどものうちに去勢することでボーイソプラノを維持するカストラータが存在し、彼らのための音楽が多数存在しました。

その後は人道的にカストラータは存在しないために、その代替えとしてメゾソプラノが用いられるようになったので、バロック・オペラの中では活躍の場が多い。

グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」は2つの版があり、ガーディナーは初期版のカストラータ用にはカウンターテナーの男性、そしてカストラータが批判され始めた後期版ではメゾソプラノでの録音を行っています。

バッハの声楽作品でも、メゾソプラノとカウンターテナーが同じ曲を歌っていることがしばしばあります。とはいっても、カストラータの声を聴いたことがある人は現在だけもいないわけですから、伝聞の伝聞を重ねた話としては、いずれにしてもカストラータの素晴らしさには敵わないらしい。

男性か女性かといえば、自分は男ですから、そりゃまぁ女性が歌っている方が本能的に気持ちがいい。そんなわけで、よりメゾソプラノが好きなんですけどね。

そこで自分の中では現代最高のメゾソプラノとして、アンネ・ソフィー・フォン・オッターの存在が大きくなってくるわけなんですが、彼女の場合は、デヴュー当初からメゾソプラノの役割が重視されるバロックで、ちょうど盛り上がってきた古楽奏法の波に乗った活躍をしました。

もちろんモダン奏法での演奏を含めて、いろいろなバッハの宗教曲でのアルバムに参加しており、80~90年代の重要な歌い手として名声を確立したと思います。

ところが、自身のアルバムでは、ずっとバッハをメインにしたアルバムがありませんでした。

そこへ満を持して登場したのが2009年のこのアルバムで、タイトルはストレートに「バッハ(BACH)」ということで、彼女のバッハのキャリアの集大成という意味合いがあるんだと思います。

中でも一番注目が、1988年のガーディナー盤ではカウンターテナーにとられた「マタイ受難曲」の白眉のアリア、"Erbarme Dich"です。ショルティ盤では録音がありますが、モダンの演奏でゆっくりめのためか、ビブラートが多めでいまいち。

今回は古楽グループを率いての歌唱で、YouTubeでもPVを見ることができます。若い時より、むしろ繊細な声なのにベテランとしての余裕が感じられます。

歌手としての旬のピークは過ぎているかもしれませんが、この声で「マタイ受難曲」全曲とかを聴きたくなりました。やっぱり、バッハはいい、そして・・・やっぱり、フォン・オッターはいいなぁとおもいます。