2020年3月7日土曜日

Maurice Abravanel Utah SO / Mahler Complete Symphonies (1963-1974)

現在までに登場した同一指揮者によるマーラー交響曲全集としては、おそらく最後の一つとして紹介するのは、アブラヴァネル指揮ユタ響の全集。

何で、最後まで残ったかというと、日本ではほとんど紹介されてこなかったということ。そして、現在でもそれほど重要視されているとは云い難い状況です。

60年代に(おそらく著作権もクリアしたので)各レコード会社は、一斉に人気指揮者を登用してマーラー全集を録音し始めました。それらの話題性十分の全集からすると、あまり人に知られていない指揮者で、しかもアメリカの田舎のオケ(御免なさい!)によるものでは到底太刀打ちできないと思われたのかもしれません。

バーンスタインはColumbiaで1960年スタート。ハイティンクはDeccaで1962年スタート。そして、クーベリックがDGで1967年という具合なのに対して、アブラヴァネルは1963年スタートですから、遅れはとっていません。

モーリス・アブラヴァネル(Maurice Abravanel、1903-1993)は、現在のギリシャ、当時のオスマン・トルコ生まれのユダヤ系で、1920年代からドイツで活躍。

しかし、社会不安からフランスに渡り、ブルーノ・ワルターの薫陶をうけますが、フランスの反ユダヤ主義台頭によりオーストラリアを経てアメリカで活動しました。

1946年にソルトレイクにあるユタ交響楽団の常任の職を得て、1979年に引退するまで同楽団と共に活動しました。世界を放浪したユダヤ人がアメリカで安息の場所を見つけたみたいな話は、マーラーとも一脈通じるところがあります。

1963年 第8番 ジャニーヌ・クレイダー、バランセ・クリステンセン、リン・オウエン、ナンシー・ウィリアムズ、マーレナ・クレインマン、スタンレー・コルク、デイヴィッド・クラットワージー、マルコム・スミス
1964年 第1番、第7番
1967年 第2番 ビヴァリー・シルズ、フローレンス・コプレフ
1968年 第4番 ネタニア・ダウラツ
1969年 第3番 クリスティーナ・クルースコス、第9番
1974年 第5番、第6番、第10番(アダージョのみ)

数少ないアブラヴァネルのマーラーの評価は、オケが下手すぎというところに集約されますが、実際聴いてみると確かに「?」というところが無いわけではありません。録音の問題かもと思いたいところですが、楽器素人の耳にも鳴らし方が不安定なところがあります。

全部がCD10枚に収まっているので、遅い方の演奏ではないはずなんですが、何かゆったりしたテンポが目立ちます。もちろん、決定的な欠点があるわけではない「普通」の演奏ということなんですが、確かにセールス・ポイントは見つけにくい。

それでも、マーラー受容が進む以前に、マイナーなレーベル(ヴァンガード・レコード)が、マイナーな指揮者とマイナーなオケで、一生懸命取り組んだ結果は簡単に切り捨ててしまうには忍びないものがあります。

個人的なことですが、自分が唯一アメリカ本土で行ったことがあるのはソルトレイクで、モルモン教の総本山がある山裾の静かな田舎町という感じでした。そして、こどもの時に家の近くにモルモン教の教会があって、背の高い外国人が布教のためしょっちゅう巡回していました。

そういう意味で、何かユタ州には馴染み深いものを感じるので、今になってユタ州の楽団に巡り合うというのもちょっと嬉しい感じがします。