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2021年4月4日日曜日

1917 命をかけた伝令 (2019)

第一次世界大戦を扱った最新の映画が「1917」で、最近の「007シリーズ」を手掛けた監督のサム・メンデスは、実際に西部戦線で伝令をしていた祖父から聞いた話を参考に脚本・制作もしています。

この映画で最大の特徴になって話題になったのが、全編ワンカット(に見えるようにつないだ)撮影です。主人公二人をカメラは追い続け、シーンが途切れることなく最後まで続きます。

実は、この手法はアルフレッド・ヒッチコックが、もともとが舞台劇であった「ロープ(1948)」で試みたものと同じ。「ロープ」は物語と映画の時間軸は同じで、80分間に起こることをワンカットで見せるという実験的映画でした。

評論家からの評価は悪くはありませんが、ヒッチコックとしてはカット割りする場合よりサスペンスの盛り上げに苦労して必ずしも満足の行った出来とは考えていなかったようです。リアルタイム劇としては、フレッド・ジンネマンの「真昼の決闘(1952)」がありますが、こちらはカット割りをしています。

ワンカット撮影は、映画人にとってはチャレンジしてみたい技法なのかもしれませんが、究極のワンカットは舞台劇であり、自由度が高くなる映画の中ではどうしてもダイナミズムが失われてしまうという点は覚悟しないといけない重要な点だと思います。

1917年4月6日朝、のどかの草原のはずれから始まる物語。イギリス軍のウィリアム・スコフィールド伍長代理(ジョージ・マッケイ)とトム・ブレイク上等兵(ディーン=チャールズ・チャップマン)の二人は、補給基地で仮眠から起こされ、作戦本部の将軍のもとに呼び出されます。

ドイツ軍が戦略的退却をして、突入してくるブレイクの兄もいるD第二大隊を壊滅させる作戦と考えた将軍は、14km先にいる大隊へ明朝の進軍を中止するよう伝令を指示します。指令を受けた二人は、長く続く塹壕の中を最前線に向かい、死臭の漂う戦場に出ていくのです。ドイツ軍の塹壕に到達するとそこはもぬけの殻で、確かに敵はごく最近撤退していました。

ここまでが冒頭のわずか20分間の間に起こることなのですが、カメラがリアルタイムに追い続けるため、当然時間軸も同じだけ進んでいるはずなので、仮眠していた場所から将軍のいる本部までは良いとしても、そこから最前線までの距離があまりに短いことに違和感が早くも生じます。

一方で、戦闘地帯の中の、放置された無残な死体の数々や、敵の塹壕に設置してあった爆弾のトラップで最初の洗礼を受けるところなどは、ワンカットのために映画を見ている側も生中継のような錯覚を起こし、戦場の雰囲気をヴァーチャルに体験する感覚に襲われます。

墜落したドイツ機からパイロットを助け出し、逆にブレイクが刺されて死亡するシーンでは、ブレイクの顔がいきなり顔面蒼白になる。いかにも死にそうなんですが、急に変わるのはやりすぎ。スコフィールドは通りかかったほかの部隊のトラックに便乗しますが、途中からは徒歩でD大隊を目指す。

しかし、町でドイツ兵の狙撃を受け意識を失い、気が付くと夜になっている。ここでは、明らかにシーンが変わり、いっきに時間が半日以上経過しています。ここからは、またワンカット撮影が続き、次第に装備を失い、やっとのことで大隊のもとにたどり着きますが、すでに攻撃が始まったところでした。

全編を通して、内容的には優れた脚本と、本当に苦労しただろうと思わせる撮影は拍手を惜しまないですし、ほぼ一人舞台のようなスコフィールドを演じたジョージ・マッケイも素晴らしい。

ただし凡庸な意見かもしれませんが、カットの切り替えが無いことで、動きの少ないシーンでは冗長な印象はぬぐえませんし、目的地のD大隊との迫りくる時間の緊張を表現しきれているとは言い難い。あと、つまらないことかもしれませんが、エンドロールに10分間はいくらなんでも長すぎです。

戦争は古いものほど、人と人との闘いの要素が多くなり、敵と味方の距離も縮まっていくということ。そういう意味では、この映画で描かれた時間と距離の感覚は間違ってはいないのかもしれません。ただし、駆り出された兵士たちが考えていることは、第一次世界大戦でも同じで、家族を思い故郷に帰れることを願っていたというのは普遍的な心境です。

戦争映画としては「ありふれた」テーマであるその点にフォーカスをあてると、この映画が成功している部類に入ることは間違いありません。ワンカット撮影にばかり注意がいきがちですが、そのことがこの映画の価値を高めることにどれほど寄与したかは何とも言えません。

この年のアカデミー賞では、撮影賞・視覚効果賞・録音賞の獲得しましたが、主要な賞はほとんど「パラサイト」に持っていかれてしまいました。