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2021年4月9日金曜日

Uボート (1981)

映画で理解する第二次世界大戦としては、ヨーロッパ戦線については、ドイツと連合軍の動きをひろっていけば理解できると思ったのは「大甘」でした。そんなことも知らずに生きてきたのかと怒られそうですが、世界大戦というくらいですから、本当に多くの国が巻き込まれていたことには驚くばかりです。

ドイツがポーランドに宣戦布告無しに侵攻した1939年9月1日に続いて、今度は9月17日にはソビエト連邦が東からポーランドに攻め込んできます。勢いに乗ったソ連は、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)を制圧し、さらにフィンランドに迫りました。

フィンランドは、19世紀初めに実質的にロシア帝国の一部となっていたのですが、第1次世界大戦終結後に独立していました。再び傘下に収めようとするロシアに対して、人員・物量とも不利にもかかわらず、フィンランドは徹底抗戦します。1939年11月に始まったフィンランドの対ソ連の戦いは「冬戦争」と呼ばれていて、フィンランド映画の「ウィンター・ウォー 厳寒の攻防戦(1989)」でその戦いが描かれています。

一方、ドイツ軍も1940年4月に突如北上しデンマーク、ノルウェイに侵攻。5月にはベネルクス三国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)にも侵攻し、電撃的な攻撃により短期間で占領範囲を拡大していきます。

ダンケルクでイギリスを大陸から追い払ったドイツ軍は、6月にフランスを占領。ここタイミングでムッソリーニ率いるイタリアも枢軸国の一員として参戦してきました。イタリアは、北アフリカのリビア、エジプトに侵攻し、さらにギリシャにまで戦場を拡大していきます。

空軍の攻撃が成果をみないドイツ軍はイギリス上陸作戦をあきらめ、ソ連の動きに注意を払い、北アフリカのイタリアを支援することに集中します。また巨大戦艦ビスマルク、高性能潜水艦Uボートによる大西洋制圧に力を注ぐようになります。海戦物の映画としては、ビスマルクの進水から撃沈までを描いた「ビスマルク号を撃沈せよ(1960)」があります。

ドイツの潜水艦は、じつは第一次世界大戦でも数百隻が投入されていたのですが、第二次世界大戦の潜水艦の代名詞Uボートはさらに多くが建造され、フランス占領後に活発に活動し数千隻の船舶を撃沈しました。しかし、しだいに連合軍の対潜水艦対策が科学面で進歩し、大戦中を通じて最も死亡率の高い部隊となってしまいました。

Uボートとアメリカ軍駆逐艦の海面と海中での頭脳戦を見事に描いたのが「眼下の敵(1957)」で、映画としてはサスペンス重視のほぼフィクションですが戦争映画の名作として記憶されます。駆逐艦艦長のロバート・ミッチャムとUボート艦長クルト・ユルゲンスの駆け引きが素晴らしい。

ドイツが自ら製作した「Uボート」は、まさにドイツ潜水艦の真実を包み隠さず描いた潜水艦映画の名作です。監督はこれがきっかけでハリウッドに進出したウォルフガング・ペーターゼンで、もともとはテレビ用のミニ・シリーズとして全6話、約5時間の長さですが、先に約半分程度に編集した映画版が公開され、世界的にヒットしました。

実際にUボートに同乗した経験をもとにした小説が原作ですので、ほとんどのストーリーはフィクションといえど潜水艦内の緊迫感のある極限状態についてはかなり現実的な描写となっています。映画版でもすごい出来なのですが、テレビ版が、より登場人物の人間像が緻密に描かれドラマとしての深みが増していて、長くても緊張感が途切れることはありません。

フランスの大西洋に面したラ・ロシェル港に明日出航のUボートの乗組員が集まっています。身なりを整えた艦長(ユルゲン・プロホノフ)は、同乗記を書く報道班のヴェルナー少尉(ヘルベルト・グレーネマイヤー)を連れ立っていました。何度も航海を共にした機関長、航海長のほかに、いろいろな部下が前夜を羽目を外して大騒ぎしていました。

出航してしばらくは、何事もなく何日も静かに過ぎていきましたが、イギリス海軍の駆逐艦と遭遇して機雷攻撃を受けたり、補給船に魚雷攻撃をして沈没させたりと、やはりただでは済まない航海となります。そんな彼らは密閉した狭い艦内でどんどん心理的にも追い詰められていき、その上さらにジブラルタル海峡を突破してイタリアに進むよう指令がおります。

実際には、狭い海峡を突破できたUボートの記録はありませんし、イギリス海軍が拠点の一つにしている場所を通り抜けるというのは、ほとんど自殺行為です。当然、攻撃を受けて重大な損傷を受けたUボートは、海峡の海底に沈んでしまいます。彼らの生き残るための、必死の作業が行われるのでした。

実物大の潜水艦のセットを作り、その狭い艦内を前から後ろまでカメラが移動していき、各部署を緻密に描写していきます。実は、この潜水艦が「インディ・ジョーンズ / 失われた聖櫃」で使われています。

派手な戦闘シーンはわずかで、ほとんどが潜水艦内だけで進行するサスペンス色が強い作品ですが、ドイツ兵も一人の人間であり、上からの無理難題に翻弄される様を通して戦争の不条理を端的に表現することに成功していると言えます。