2020年3月8日日曜日

マーラー交響曲全集総覧

マーラーの交響曲全集と呼べるものを、ずっと取り上げてきましたが、実はこれら以外にもいくつかピックアップしなかったものもあります。

TeldecとNAXOSからも「全集」と銘打ったセットがでているのですが、いずれもあまり知られではない複数の指揮者とオーケストラも複数です。しかも、また著作権切れを狙った古い音源をまとめたものも多数あったりします。

コンセルトヘボウ管のセットはBD、DVDによる映像全集としてなかなか面白いのですが、何しろ価格が高め。バイエルン放送響の指揮者バラバラのセットもあります。同じく、ニューヨークフィルの放送用音源を用いた自主製作盤というのもあって、有名な指揮者が勢ぞろいという企画物もありますが入手困難です。

つまり、全集と呼べるものをどう定義するかということなんですが、基本的には何らかの事柄に合致するものを「全て」「集めた」ものが全集と言われるとは当たり前の話。「マーラーの交響曲」と呼ぶからには、マーラーが作曲した完成している交響曲第1番~第9番が含まれるのは最低条件。

惜しくも全集完成とは呼べない高名なマーラー振りの指揮者は多数いるわけで、これまでに登場しなかった人だけでも、古い所でホーレンシュタイン、ミトロプーロス、バルビローリ、コンドラシン、比較的新しいところでメータ、ムーティ、ジウリーニなどは残念賞です。

マーラー自身が交響曲と呼んではいますが、実質的には連作歌曲である「大地の歌」と、未完の第10番については、含まれていることが望まれますが、抜けてもしょうがないかなとあきらめがつく。マーラーのオーケストラ伴奏歌曲集については、交響曲との関連が深いものが多数あるので、オマケとしてあれば嬉しい。

演奏者から見ると、クラシックは指揮者とオーケストラの組み合わせで、オケの音色の特徴も言われますが、どちらかというと指揮者の意図がどう演奏したいかに反映されるので、「同一指揮者」による全集が原則となります。当然、その指揮者が全集としてのセットの発売に同意していることも大事。

オーケストラについも、できれば同一オケで統一されていることが望ましいのですが、それを言っちゃうと、バーンスタイン、アバド、ブーレーズ、そしてラトルも外れてしまいますのでここは許容するしかない。

最初から全集を意図して録音が始まったものは、当然商売になるかどうかわかりませんから多くはありません。通常は、これは行けるとなって全集にしようとなっていくわけでしょうから、基本的に完成した時で順番をつけてみます。

1967年(1960-) バーンスタイン / ニューヨークフィル、ロンドン響(第8番のみ)
1971年(1967-) クーベリック / バイエルン放送交響
1971年(1962-) ハイティンク / コンセルトヘボウ管
1974年(1963-) アブラヴァネル / ユタ響
1976年(1971-) バーンスタイン / ウィーン・フィル、ロンドン響(第2番のみ)

1982年(1976-) ノイマン / チェコ・フィル
1983年(1970-) ショルティ / シカゴ響
1986年(1977-) テンシュテット / ロンドン・フィル
1986年(1985-) インバル / フランクフルト放送響
1988年(1985-) バーンスタイン / コンセルトヘボウ管など
1989年(1982-) マゼール / ウィーン・フィル

1991年(1984-) ベルティーニ / ケルン放送響
1991年(1988-) 若杉弘 / 都響
1993年(1980-) 小澤征爾 / ボストン響
1993年(1987-) タバコフ / ソフィア響
1994年(1980-) アバド / ウィーンフィル、シカゴ響、ベルリン・フィル
1995年(1992-) ワールト / オランダ放送フィル
1996年(1990-) スヴェトラーノフ / ソビエト国立響
1996年(1985-) シノーポリ / フィルハーモニア管

2002年(1986-) ラトル / バーミンガム市響、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル
2003年(1988-) ギーレン / 南西ドイツ放送交響
2004年(1986-) シャイー / コンセルトヘボウ管、ベルリン放送響(第10番のみ)
2007年(1986-) ラトル / バーミンガム市響、ベルリン・フィル
2009年(2001-) トーマス / サンフランシスコ響

2010年(1994-) ブーレーズ / ウィーン・フィルなど
2010年(2006-) ジンマン / チューリッヒ・トーンハレ管
2011年(2011-) マゼール / フィルハーモニア管
2011年(2003-) ノット / バンベルク響
2011年(2007-) ゲルギエフ / ロンドン響
2012年(2007-) ヤルヴィ / フランクフルト放送管
2014年(2009-) シュテンツ / ケルン・ギュルツェニヒ管

バーンスタインの2番目のセットは映像として発売されたもの。バーンスタインの3番目のセットは、亡くなったため未収録だった第8番を70年代映像のウィーン・フィルを流用。
ラトルの2番目のボックスはウィーンフィルによる第9番をベルリンフィルに差し替えた物。

並べてみて気がついたトリビア。

最初に全集を完成したのはバーンスタイン。ウィーン・フィルのみというのはマゼールだけ。ベルリン・フィルだけで完成した指揮者はまだいない。全集化に一番貢献しているのは、たぶんコンセルトヘボウ管。

最初に全集録音を始めたのもバーンスタイン。続くのがハイティンク、アブラヴァネル、クーベリック。複数の全集完成はバーンスタイン(一部重複はあるけど)とマゼール。ラトルは演奏の入れ替えだけで、複数とは云い難い。

一番短期間で完成したのはライブでたった1年間の2回目のマゼール。次がインバル。同一オケで一番時間を要したのはショルティと小澤の14年間。複数オケならブーレーズの17年間。

やはり、マーラー生誕100周年、没後50年を契機にバーンスタイン、ハイティンク、クーベリックらが今日のマーラー人気の先駆者となり、彼らに触発されて70年代後半から80年代に多くの全集が企画されていったように思えます。

そして、生誕150周年、没後100年の2010年頃に再びピークが来たようですが、当分はアニバーサリーは無いので、今後は人気は落ち着いて継続して、年に1セットずつくらいが登場するのかもしれません。