2021年4月6日火曜日

空軍大戦略 (1969)

ダンケルクの撤退を許したドイツ軍は、休むことなくフランスへの侵攻をさらに進めます。そしてついに1940年6月22日、フランスはドイツに降伏占領され、フランスは南部のみ名目だけの主権国家となります。後に大統領となるシャルル・ド=ゴールはイギリスに亡命政府府を作りました。

ヒットラーの次の標的はイギリスでした。戦争初期には無敵を誇ったドイツの空軍機、メッサーシュミットや爆撃機ハインケルを夏以降大量にドーヴァー海峡を越えて投入しますが、イギリス空軍もスピット・ファイヤーなどで応戦。特に最新のレーダーを備えたイギリス軍は、徐々にドイツ軍を消耗させていきます。これは歴史的には、「バトル・オブ・ブリテン」と呼ばれる空の戦いとして記録に残りました。

ヒットラーは小型機による攻撃を断念し、爆撃機によるロンドン空襲に作戦を切り替えます。しかし、なかなか決定打とならず、北のソビエトの動きが活発化してきたためイギリスへの侵攻は中止になりました。無敵を誇り快進撃をしてきたヒットラーにとっては、最初のつまづきでした。

この映画は、原題はまさに「Battle of Briten」であり、監督は「007シリーズ」で有名なガイ・ハミルトン。チャーチルの「フランスの戦いは終わった。次はイギリスだ」という言葉から始まり、絶対的な主人公なしで、イギリス政府・軍部のそれぞれが、各部署で対ドイツ戦を準備し、何とか撃退するまでを歴史的事実を踏まえて描いていきます。

1940年6月、イギリス軍はダンケルクから撤退し、ヒットラーからは降伏同然の和平案が示されますが、イギリスは断固拒否します。これは軍備が整うまでの時間稼ぎで、実際、パイロットや新技術のレーダーの使用した管制官の育成を急いでいました。

イギリス空軍のトップはローレンス・オリヴィエ、一方のドイツ側にはクルト・ユルゲンスという豪華なキャスティングです。イギリスのパイロットは、クリストファー・ブラマー、ロバート・ショー、マイケル・ケインというのもすごい。なんか007にゆかりの人ばかりだと思ったら、何と製作がショーン・コネリーのボンド映画をアルバート・ブロッコリと共同製作したハリー・サルツマンです。

ブラマーの奥さんがスザンナ・ヨークで、空軍に所属してすれ違い夫婦になっているエピソードが、ドラマとしてのアクセントになっていますが、あくまでも刺身のつまみたいなものです。何といっても、一番の見せ場は飛行機同士の空中戦です。

ミリタリー・マニアの人からは一言あるようですけど、ほぼ本物の実機がどんどん登場してくるのはなかなかの見物です。撮影時、ドイツの爆撃ハインケルがロンドン上空を飛行したのは、かなり市民を仰天させたらしい。

模型はたくさん使われているようですが、CGの無い時代ですから当然ですが、最近の派手な爆発シーンやリアルな死体の山は登場しません。それでも、実際にアクロバット飛行で、実機が飛び回ることは、逆に今となっては実現不可能な映像だと思います。

映画の中ではイギリスの4倍の飛行機を有すると表現されていますが、実際にはほぼ空軍の兵力は拮抗していたようです。また、レーダーの実用化により早期に敵機の飛来を把握できたことや、イギリス寄りの戦場ではパラシュートで降下したパイロットを回収しやすかったといった地の利があったことで、イギリスの方が押し気味に戦闘が進行したようです。

両軍機ともに航続距離は700km程度なのですが、ドイツはフランスから飛来して往復だけで燃料の半分近くを消費してしまうので、イギリス上空で戦闘にかけられる時間は10分程度と映画内で説明されています。

ドイツの判断ミスは、自軍が優位と考え、直接ロンドンの爆撃に作戦の中心を移行させたことでした。爆撃の侵入ルートは予想されやすく、また小型の戦闘機の方が機動性に優れているので、ドイツ空軍は甚大な損失を受けることになります。

最後の大規模な空中戦シーンは、効果音や俳優の言葉は無く、音楽だけで延々と続きます。そして、映画は集中的な攻撃がひと段落ついて、何とドイツの攻撃の矛先がソビエトに向いたことで、イギリスに束の間の平穏が訪れ終了します。