2017年6月25日日曜日

Martha Argerich "セミ"コンプリートを目指す


マルタ・アルゲリッチ・・・クラシック音楽界における最高ランクのピアニストの一人、また現役の中では"THE TOP OF TOPS"と誰もが認める唯一無比の存在。

当然、アルゲリッチの音源についてはすべてを聴く価値があり、コレクションする意義もあるというもの・・・なんですが・・・

グールドはまだいい。何しろ亡くなっているし、コンサートを拒絶したのでライブは限られ、正規盤は一つのレコード会社だけで、放送音源もほぼ地元放送局だけ。

アルゲリッチは、そもそも現役だし、いまだに精力的にコンサート活動を行っています。正規盤のレーベルはいくつもにまたがっている。また、本人のお気に入りのレパートリーについては、多数のスタジオ・ライブ両音源はありわけが分からない。

それでも、昨年は75歳を記念して、正規盤リリースの各社が総集編ボックスを発売したので、かなり見通しがよくなった感じがします。

また、筋金入りのアルゲリッチ・ファンのサイトがあり、詳細なレコーディング・データを掲載しているので、他人頼りの自分としては大変助かるわけです。

それでも、相当な時間とお金をかけないと、コンプリートは到底無理ということは間違いなく、逆にあきらめがつくというもの。

したがって、最低限として各レパートリーの音源は一つはコレクションする、そしてライブについては基本的に正規盤に限定するという・・・という妥協案でも、十分にアルゲリッチの音楽を堪能できるというものです。


まず、一番多くの正規盤がリリースされているのがドイツ・クラマフォン(DG)ですが、これは2014年までの分は完全に網羅してのCD48枚のボックスで決まり。その後は数枚があるだけで、これははっきりしているので問題ありません。

次に多いのはEMI(現在はWernerが吸収)ですが、こちらも20枚CDボックスになりましたが・・・これが微妙。まぁ、だいたいはいいんですが、21世紀のアルゲリッチの活動の中心にあるルガーノ音楽祭の記録については省かれています。

確かにルガーノ音楽祭のCDは毎年3枚組でリリースされて、すでに30枚以上になっています。また、アルゲリッチが演奏に参加していないものも含まれる。将来的には、これらが別ボックスになるかもしれません。

また、各国独自の製作盤もあり(特に日本)、これらは含まれていませんし、単独で探すと中古でもけっこうなプレミアがついてたりする。

Sony Classicalは、吸収した旧RCAのものを5枚組を発売しました。これらで総枚数は71枚になり、ルガーノの分と新譜で登場しているものを含めると正規盤としてはCD110枚くらい・・・だと思います。

その他のレーベルのものとしては、どうしても落とすことができなさそうなものが、何枚かはありそうです。

例えば、多数の録音があるシューマンの協奏曲は、ワルシャワでのライブを収録したAccord盤が、最も優れていると評判です。アルゲリッチが優勝した1965年ショパン国際コンクールでの予選からの演奏の大部分が、いくつかのCDにまたがって存在します。


日本でのライブも数枚独自レーベルで出ていて、特に80年代以降は独奏はアンコール以外はほぼ皆無になった中で、2000年に17年ぶりに東京で独演会を行った記録は貴重です。

クラシックでは、特に「何とか全集」という形でのリリースが偏重される傾向がありますし、実際聴く側もお気に入りの演奏家による全曲制覇を期待してしまいがちです。

しかし、アルゲリッチは、このことについてはまったく気に留めていません。自分の中で、弾く価値が有るものと無いものの線引きが明解にされていて、「ショパン弾き」であるにもかかわらず、まったく手を出さない曲は多数あります。

まずアルゲリッチ・ファンになるためには、この点について許容しなければいけません。

例えばショパンは、ピアノ・ソナタについてはたった3曲しか作曲していないのですが、アルゲリッチの演奏で第1番を聴きたいと願ってはいけないのです。

クレメールやマイスキーとの競演で見事なベートーヴェンを聴いても、アルゲリッチによるピアノ・ソナタを聴きたいと考えないことにします。

シューマンの五重奏がいいからと言って、三重奏を望んではいけません。シューベルトが聴けることはなく、アルペジオーネ・ソナタは例外。モーツァルトは基本的に無いものとします。

アルゲリッチの、きっと心のどこかの琴線をピンとはじく何かがある曲だけが演奏されるわけで、水面に波紋がおこらない曲はばっさりと切り捨てられ、見向きもしない姿勢はずっと堅持されてきました。

きっと、これまでに多くの強制に近いレコード会社からの要請はたくさんあったと思いますが、あくまでもレパートリーは自分が決めるという姿勢を貫いてきたことに、アルゲリッチの偉大さが現れているような気がします。


相当な実力と精神力が無ければ、そういう重圧を押し返して、現在の地位を勝ち得ることはなかったでしょうし、もしも妥協していたら多くの駄作も残してきたかもしれません。

実際、全集としてすべてを聴く価値があるものは、そう多くはありません。ソナタが第10番まであったとして、おそらく繰り返し聴きたくなるのはその中の二つか三つくらいです。後は、一度聴けばそれきりで問題ない場合がほとんど。

全集は歴史的、資料的価値はありますが、純粋に「音を楽しむ」ためには、それほど意味は無いのかもしれません。ハワードのリスト独奏曲全集は、物凄い労作であることは間違いありませんが、99枚もあるCDのうち、自分は実際にドライブに入れたのは数枚で、大多数は手つかず・・・

アルゲリッチの一つ一つの音源は、自ら演奏したいから演奏したものです。ですから、すべてを聴く、コンプリートを目指す(セミですけど)価値があるというわけです。

・・・・とは言え、アルゲリッチが弾いたら、ペートーヴェンの32番やシューベルトの21番がどんな音になるのか、聴いてみたいという気持ちはあるんですけどね。