とは言っても、売る方もそこは商売ですから、安易に全部を詰め込んで、一度買われたらおしまいというのでは、商品としての価値が途切れてしまうのでよく考えている。
リマスターしました、未発表音源を追加しました、初出レコードのジャケットを再現しました・・・等々。いろいろな手を使って、マニアの心を揺さぶってくるので、心ならずも同じ音源のメディアを二度、三度と買うことになっています。
例えば、グレン・グールドの1981年の「ゴールドベルグ変奏曲」は、本気でクラシック音楽を聴くようになったきっかけとして、思い入れの強いものですが、最初に当時の通常編集の単発CDを買いました。
次に、1955年録音のものとのカップリング盤を購入。これは、本来初期のデジタル録音だった1981年盤で、同時に録られていたアナログ・テープをマスターにしたというもの。
さらにグールドの演奏するバッハの作品を集大成したボックスで購入し、そしてついに今年リマスターされたグールド全集を手に入れたので、全部で4種類手元にあるということになります。
だんだん大掛かりになっていくのですが、実は最後の全集は没後発売されたものは含まれていないという、もっとも巨大なのに既発売のかなりの音源が抜けているという、なんだかなぁというもの。
たぶん、最初に覚えた指揮者の名前はカール・ベーム、ブルーノ・ワルターあたりなんですが、続くカラヤン皇帝のお陰で、大袈裟な雰囲気のクラシック音楽が好きではなくなったという過去があります。
そんなわけで、器楽曲、室内楽曲専門みたいな感じで、長らくオーケストラ物は意識的に避けていました。そして声楽物も、どうも苦手意識が先行してしまい手を出さなかったわけです。
そこを見事に切り開いてくれたのが、ガーディナー先生です。古楽奏法という、少人数のオーケストラによるきびきびした風通しの良い先生のベートーヴェンの交響曲全集は、それまで巨匠然としておかたいベートーヴェンのイメージすらも変えてくれました。
さらに、ガーディナー先生の最も得意とする手兵モンテヴェルディ合唱団が加わった宗教曲が、声楽の垣根を飛び越える水先案内の役割を果たしてくれました。
先生の若い頃は、バッハ作品についてはArchivレーベルから、カール・リヒターの継承者扱いをされていました。バッハ以外のバロックものはPhilipsを中心に発売され、歌劇はEMIが多い。
これらについては、歌劇を除いてある程度ボックス化されていますので、ほぼ収集可能ですが、いずれもだいぶ昔のことで最近は中古で探すにしてもけっこう苦労します。
2000年にバッハのすべての教会カンタータを暦通りに1年間で演奏するという偉業を行い、これをArchivから順次発売する予定が、会社側の音なの事情で頓挫したのをきっかけに自らのSDGレーベルをたちあげました。
10年以上かけて、やっとカンタータをすべて発表し、2014年についにボックスとしてカンタータ全集を発売したのは、まさにこのジャンルでの金字塔だろうと思いますし、自分にとっても記念碑的な重要なCDです。
実際のところ、ガーディナー先生も高齢になってきていて、おそらく自分のキャリアの見直しと集大成みたいなところは意識しているんだと思います。
SDGレーベルからは、ベートーヴェン交響曲の一部の再録音が行われていますし、そもそもカンタータ以外のバッハの宗教曲が順次再録音されています。ヨハネ受難曲、ロ短調ミサ曲、そして今年はマタイ受難曲が発売になりました。
SDGには、モテット集、ブランデンブルグ協奏曲の再録音もありますので、自分のSDGの中で重要な作品を記録しておきたいという気持ちがあることは間違いないと思います。
世俗カンタータについては、今までにいくらでもチャンスはあっただろうと思いますが、単発のごく一部のみで、まとまった録音はありません。これは何故かわかりませんが、意図的に避けてきたのかもしれません。また、モンテヴェルディ合唱団の力を見せつける素材としても格好なはずのコラール集もありません。
Archiv時代は、人気歌手をゲストに迎えての収録で、それはそれで面白いのですが、SDGでの魅力はモンテヴェルディ合唱団を信じて、合唱団の歌手にスポットを当てる方式になったことです。これは、よりバッハの演奏方法により近い形態といえます。
もちろん、スター性という点でのセールス・ポイントは落ちるかもしれませんが、自前の組織だけでこれだけの高度の音楽をこなせる力は凄いことですし、同じジャンルの他の団体では真似できない素晴らしいところです。
モンテヴェルディ合唱団の仕事を集大成する意味でも、近い将来SDGからのボックス第2弾の登場を強く期待しますし、すでに単発で所有していますが出れば間違いなく購入すると思います。