2025年9月27日土曜日

カメヤ演芸場物語 (2004)

これは、2004年11月に行われたイナダ組の第29回公演で、TEAM NACSと掛け持ちをしていた大泉洋、音尾琢真はイナダ組での最後の舞台になりました。森崎博之は2006年の本作の続編にも客演しています。

浅草の亀屋という演芸場に集う人々の人情味あふれる群像劇であり、大変よくできたストーリーです。時は1970年頃の高度経済成長期で、若者の一部は体制打破を目指した学生運動に身を投じていた時代の日本です。

亀屋演芸場の支配人は佐竹(森崎博之)、事務をしているのは御所河原(山村素絵)、芸人をめざしている夏目(飯野智行)が進行係です。楽屋に出番を待つのは、やたらと高座に出たがる落語家の出船亭金朝(川井"J"竜輔)、若手のトリオ・ザ・ハイセンスの石崎(岩尾亮)、クニ(江田由紀浩)、チー子(小島達子)の三人、そしてベテラン夫婦漫才のロマン(大泉洋)・カレン(棚田佳奈子)たちです。

ロマンは酒浸りで、カレンとの間に喧嘩が絶えません。石崎は芸に真剣に取り組んでいて、真面目にネタを覚えず稽古もしないクニに厳しく当たります。そこへ、学生運動家の一斉検挙を逃れてきた秋田徹郎(音尾琢真)が逃げ込んできます。この際だから、ほとぼりが冷めるまで夏目と組んで漫才をするようにロマンから勧められます。

石崎からそんな甘いもんじゃないと言われた秋田は、意地になって夏目と漫才をしているうちに、しだいにここにも一生懸命になれるものがあることに気がつきます。酒に飲まれていたロマンは、カレンが病気で倒れたことで酒をやめてカレンをつきっきりで看病するようになりました。

ネタが飛んで途中で舞台を降りてしまったクニに石崎は激怒して、トリオ・ザ・ハイセンスはついに空中分解してしまいます。自分の余命を悟ったカレンは、チー子にカレンを継いでほしいと言い、自分の芸のすべてをチー子に教え込むのでした。

そして、二代目カレン襲名披露の日、カレンは無理を押して楽屋にやってきます。しかし、一人きりになって面白くないクニが、秋田のことを警察に知らせたため、刑事と警察が踏み込んでくるのです。佐竹らが今日のステージがどれほど大事か必死で説明し、これだけはやらせてほしいと頼み込み、前座の秋田と夏目はステージに向かいます。

ロマンは、初めてカレンと上がったステージのことを思い出していました。ロマンの話を聞きながら、カレンは静かに息を引き取るのです。ロマンは「さぁ、しっかりと聞いていてくれよ」と言うと、チー子を連れ立ってステージに向かうのでした。

よくあるストーリーなのかもしれませんが、目標は違っても何かに向かって熱くなる人々がたくさんいた時代の空気を、とてもうまく描き出した舞台だと思いました。笑うところはそこそこありますが、かなりTEAM NACSの三人に頼っているところはちょっと残念かもしれません。

2002年には、似たようなテイストの「亀屋ミュージック劇場」を上演しており、2020年には本作を再演をしていますが、そこでロマン演じたのは「水曜どうでしょう」ディレクターの藤村忠寿というのが興味深い。作者の稲田博にとっては、それなりに思い入れがあるように思います。

年に2本のペースで舞台を行っていたイナダ組に、大学卒業前から在籍していたTEAM NACSの面々にとって、ここでの経験は演技者として大きく成長する糧になったことは間違いありません。