原作はリリー・フランキーの自伝的小説。文筆家、作詞家、イラストレーターなどの仕事をしてきたリリー・フランキーは、2001年に映画で俳優デヴューをしていますが、一般に名前が知られるようになったのは2006年に発表された本作が「本屋大賞」を受賞してからだと思います。
これをすぐさま映像化したのがこのスペシャル・ドラマで、「時間ですよ」、「寺内貫太郎一家」などを大ヒットさせたプロデューサーの久世光彦が、自ら切望して演出を担当、大泉洋や田中裕子のキャスティングも決めていました。脚本は「おかしなふたり」の土田英生です。
しかし、クランクイン直前に久世が急死したため、西谷弘が久世のプランを引き継いで数か月遅れで完成させました。全国に打って出て間もない大泉洋にとっては、初めて笑いを封印したシリアスな演技を主役として求められた作品です。
北九州の炭鉱町。"オカン"中川栄子(田中裕子)は息子の雅也(神木隆之介)と暮らしていましたが、夫の"オトン"弘治(蟹江敬三)は、別の場所で好き勝手な暮らしをしていて、たまに飯を食うためにやってくるだけでした。母子は、いつか東京タワーに一緒にいこうと約束していました。
東京の大学に進学した雅也(大泉洋)は、後輩の榎本(佐藤隆太)と毎日の食事にも困るような自堕落な生活をしていて、アパートも家賃を滞納して追い出されてしまいます。雅也と榎本が芝公園で野宿をしていると、東京タワーの案内係をしている真沙美(広末涼子)が友人と昼食をとっているのを見かけます。
真沙美のイキイキした様子に感化された雅也は、いろいろなバイトをするようになり、いつしか東京で絵を描く仕事をしたいという夢に向かってがんばるようになります。そして真沙美とも付き合うことが出来るようになりますが、オカンが病気になったため雅也は一緒に東京で暮らすことを提案するのです。
はじめは榎本や真沙美が訪れだけだった家に、しだいに雅也の仕事仲間や出版社の人々などがたくさん出入りするようになり、皆がオカンを囲んで楽しく食事をする毎日になりました。しかし、オカンに胃がんが見つかり入院してしまいます。
雅也はオカンのことで気持ちがいっぱいで、真沙美に別れを告げてしまいます。それでも、真沙美はオカンの見舞いをやめることはありませんでした。そしてオトンも久しぶりに駆けつけ、雅也が見守る中でオカンは息を引き取りました。オカンと一緒に行くと約束していたからと、頑なに東京タワーに行かなかった雅也は、真沙美に会うためについにタワーに上るのでした。
翌年に松岡錠司監督で映画版が公開され、大変評判がよかったのを覚えています。雅也を演じたのはオダギリジョーでオカンは樹木希林、オトンは小林薫でした。真沙美はミズエとなって松たか子が演じましたが、東京タワーでは働いていません。一番良かったのは、やはり樹木希林です。そしてオカンの若い時を演じたのが、実の娘である内田也哉子というアイデアは素晴らしかった。
テレビ版では真沙美の比率が大きく、より母と息子の関係性を際立たせている演出でしたが、映画のミズエはやや弱い存在。小林薫は寡黙な人のイメージが強く、オトンは無茶苦茶な感じは圧倒的に蟹江恵三に軍配を上げたくなります。
オダギリジョーと大泉洋は、どちらかといえばマザコン感ではオダギリジョーの勝ち。ただし、東京でのオカンとの生活と真沙美との関係性に主眼を置いたテレビ版と、オカンだけでなくオトンとの関係に着目した映画版という違いがあるようです。同じ原作でもだいぶ印象が異なりますので、出来れば両方を見てもらいたいと思います。
ちなみにフジテレビはこのスペシャル・ドラマの数か月後に倍賞美津子・速水もこみち主演で連続ドラマも放送しました。オトンは泉谷しげる、雅也の彼女は大学の同級生のマナミとなっていて香椎由宇が演じています。スペシャル・ドラマ版がベストという方は結構いるみたいです。