2019年4月20日土曜日

東京タワー、オカンとボクと、時々オトン (2007)

リリー・フランキーの自伝的小説を原作とし、公開当時大ヒットした松岡錠司監督による映画。

ただし同年の賞レースでは、「それでもボクはやっていない(周防正行監督)」があらかたの賞をかっさらったにもかかわらず、日本アカデミー賞だけは、こっちの作品に五冠を与えました。

それまでの日本アカデミー賞は、大手映画会社やテレビ局の持ち回り組織票による出来レースと噂されていました。最優秀主演女優賞に輝いた樹木希林は、痛烈に審査結果を批判して物議をかもしました。

ただし、それは別として、それぞれの俳優陣の演技が輝いて、作品として上々の出来であることは間違いありません。この作品によって、リリー・フランキーが世間に知られる存在になったことも忘れてはいけません。

リリー・フランキーは、本名は中川雅也といい、昭和38年、福岡県北九州市小倉で生まれ中学卒業までを福岡県宮若市、高校から大分県別府市で一人暮らしをしました。大学は東京に出て、武蔵野美術大学を5年かけて卒業。

絵を描くだけでは食べていけないので、何でも仕事はしたようで、その中でエッセイを書いたり音楽活動をしたりして、20代後半から徐々に頭角を現し、サブカルチャー分野で知られるようになります。2003年から映画の原作になった初の長編小説を連載し、「本屋大賞2006」を受賞しています。

最近では俳優としての活動が目立っており、是枝裕和監督作品で近作に4作続けて出演しており、「そして父になる」、「万引き家族」では重要な役どころを演じて高く評価されました。

この映画では。雅也(オダギリ・ジョー)の回想ナレーションで話が進行します。ほとんど家にはいなくて、たまに帰ってくると酔って暴れたりするダメな父親(小林薫)に悩まされながらも、母親を敬愛しすねをかじり続ける様子が描かれます。

母親、オカンを演じるのは、樹木希林です。若い頃を実の娘の内田也哉子が演じて、さすがに面影が似ているので、時代の変化に無理がありません。苦しい生活ながらも、息子が精神的な支柱であり、明るく何事にも前向きに生きている様を母娘で見せてくれました。

樹木希林は日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を獲得し、賞に対して批判発言をしましたが、映画を見ればその価値が十分にあると思います。癌を患い、抗がん剤による化学療法の苦しさなどは、知っている人にはリアル過ぎるかもしれません。

描き方によっては、親離れできない息子と、子離れできない母親のべたべたした関係になってしまいそうですが、何があっても、離れて暮らしていてもお互いを信じている現実的な母子家庭として踏みとどまることに成功しているのは樹木希林の演技に負うところか大きいように思います。

タイトルにもなった東京タワーは、この一家の憧れですが、日本の高度経済成長期を象徴する当時の日本人すべての憧れでもありました。東京スカイツリーに高さでは抜かれてしまいましたが、戦後復興を含めた特別な存在価値はそのまま残っています。