2004年に東京進出した後のTEAM NACSは、メンバー各人がどんどん露出を増やし知名度を上げていきました。結成10年となり2007年以降は、「TEAM NACS SOLO PROJECT」を立ち上げ、チームとしての舞台と並行して個人での活動も開始されます。
その先陣の舞台を飾ったのは佐藤重幸でした。混乱しやすいのでずっと「戸次」と呼んできましたが、活動開始時から本名の佐藤を名乗っていました。2008年の年初より改名したのですが、これは2006年12月に病気で死去した母の旧姓「戸次(べっき)」をとったもので、難読なため「とつぎ」と名乗ることにしたのです。
2007年8月に行われた本作は、東京新宿と札幌市道新ホールで行われた、佐藤姓による最後の舞台です。母を亡くしたことが、少なからず影響した作品になっていると思います。佐藤重幸が自ら脚本を書き、演出はこの作品を機会に、度々TEAM NACSとの仕事をするようになる福島三郎です。
幕が開くと舞台の奥には3つの柩が横に並んでいて、真ん中の柩からでてきたのは会社社長の山田晴海(大河内浩)、右からは水木しげお(二瓶鮫一)、左からは北海太郎(野仲イサオ)が登場しますが、みんな幽霊です。水木と北海は山田に心からの謝罪を求めて責めますが、実は山田が飲酒運転で起こした交通事故の巻き添えで死んで幽霊になっていたのです。
そこにもう一人、キット(音尾琢真)という幽霊が登場します。自分もあの事故で死んだと言うのですが、そんな被害者がいたという話は誰も聞いていない。実は彼は、山田が運転していた車に搭載されたカーナビでした。山田の会社で密かに開発したAI搭載ナビで、山田が使い込んで人格が形成されていたのです。
葬儀場に現れたのは、山田の息子で副社長の手塚君彦(佐藤重幸)でした。君彦は社長が死んだので、自分が社長になって社名も変えて新たな事業を始めると言い出します。そんな勝手なことは許さんと山田が姿を現したので、他の者も一斉に見えるようになり君彦は驚くのです。
君彦は実は山田の愛人だった手塚文江(加藤たか子)のこどもでした。山田から援助が無く、文江は独りで君彦を育てるためにかなり無理をしていたため、君彦が小学生の時に亡くなっていたのです。母親が何と言おうとも、山田が会社に迎い入れてくれても、君彦は父親を許す気にはなりませんでした。
4人の幽霊は、供えてあった酒を酌み交わしているうちに意気投合して、それぞれちゃんと自己紹介しようということになります。北海は1万年以上前に地球に観光でやって来た宇宙人で、迎えが来ないために今に至ると言います。水木は600年前から妖怪の座敷童でした。
そこへ君彦が戻って来て、キットにプログラムのデータを返すように言い出します。キットを産み出した画期的なデータは、キットの仕業ですべて消去されていたのです。データを渡したら自分にも仲間を作ってくれというキットの頼みを君彦が了承したので、キットはパソコンに乗り移りデータに戻ります。
しかし、君彦はキットの学習してきたパーソナル・データについては破壊してしまうのでした。山田・北海・水木は怒り、それは殺人と同じだと言いでします。水木は自分の能力を使って、データを復元してキットを蘇えらせます。キットは怒って、君彦に乗り移ってすべての記憶を消して「人として死」なそうとしますが、乗り移って記憶を読み取った途端に元の体に戻ってしまうのです。
キットは君彦に自ら隠していたことを白状しろと詰め寄ります。実はこの事故は君彦が山田の酒に睡眠薬を入れたことで起こったのであり、すべては母親を見殺しにした山田への復讐であったと君彦は話します。さらにキットは、山田にも本当のことを話してやれと言うのです。山田が躊躇していると、その時、何と文江の幽霊が登場するのでした。
何しろ幽霊の中で元人間は一人だけで、あとは宇宙人、妖怪、そして極めつけはカーナビというかなり奇想天外な状況なんですが、不思議と見ているうちにあまり違和感を感じなくなるところは、脚本の妙というところでしょうか。特にこの頃にAI(人工知能)をもった機械を登場させると言うのは、けっこう先見の明があるなと感心します。
ところどころの笑わせる小ネタは時事ネタが多いため、今見るとあまり面白くはありませんが、根本的な設定が面白いので楽しく見ることができます。そこそこにテレビ・映画などで活躍している俳優さんばかりなので、演技に関してはまったく不安がありません。
TEAM NACSの舞台をいくつも見た後だと、良く言えば大人の舞台、悪く言うと熱量が少な目という印象ですが、SOLO PROJECTですから、いつもと同じことをしなくて当たり前なので、十分に楽しめました。