今年は東日本大震災のために自動車メーカー各社は、大幅な減産を余儀なくされました。しかし夏以降は順調に生産ペースが回復し、各社とも前年並みの水準に戻っています。しかし、ここでタイの大洪水という急ブレーキがかかり、部品調達難のため増産体制を維持できなくなっていることは、日本の経済にとっても大きな痛手となっています。
今年の1月から9月までの総新車登録台数は196万台。上半期は前年比の70%程度まで落ち込んでいましたが、このところ年間の総台数は300数十万台ですから、このペースで10月~12月を乗り切ると最終的には20%以内の減少にとどまる見込みです。
さて、震災による特殊な事情があるのですが、1月~9月までの内容を見てみます。
まず、メーカー別ではトヨタ 42%、日産 15%、ホンタ 14%、マツダ5%、以下スズキ、富士重工、三菱、いすゞ、ダイハツの順。やはり圧倒的な強さを見せつけているのがトヨタ自動車。震災の影響を最も受けたと言われているにもかかわらず、その後の復調はさすがと言わざるを得ません。
トヨタ自動車は自動車産業にとどまらず、日本工業界最大の企業であり、そのポジションを維持していくことは日本の経済の推進力として社内外から求められているわけです。
新車登録台数のうちバス・トラックなどが約10%ですが、軽自動車が57%で現代の日本で身近な足として圧倒的なシェアを占めています。特に今年は、震災後に失った自動車のかわりに軽自動車が求められたという事情もあるようです。
普通車のなかで、ブランド別の順位をみていくと、一位がトヨタのプリウス(α含む)で165,734台。二位はホンダのフィットで153,883台、上半期はトヨタ減産でプリウスを抜いたのですが、トヨタ増産で天下は短かった。三位はトヨタのヴィッツで100,364台。この3車種までが10万台をこえていて、この数年不動の地位にあるわけです。
トヨタは台数ランキングでBEST20までのなかに1(プリウス)、3(ヴィッツ)、5(カローラ)、8(ラクティス)、10(パッソ)、12(ヴォクシー)、14(ノア)、16(ウィッシュ)と言う具合にコンスタントに車種がはいっています。
日産は4(セレナ)、9(マーチ)、11(ノート)、17(キューブ)、18(ジューク)、20(ティーダ)の6台。比較的いろいろあるのですが、最高がセレナの63,594台で、大ヒット車種がない。安定した売り上げという見方もできますが、どうも決め手に欠けるという状況でしょうか。
各社の上位車種は、それぞれ各社の中では10~20%をしめているわけですが、問題はホンダです。ホンダはBEST20の中で見ると2(フィット)、7(フリード)、13(ステップワゴン)の3車種がはいっているのですが、それぞれがホンダ車の中で占める割合が、55.4%、17.6%、12.1%であり、ほとんどこの3車種しか売れていない。
特にフィットが占める割合が50%を越えていて、ほとんどフィットのみに依存している状況です。ホンダにとってフィットは、まさに命綱と言えるでしょう。もっとも、デミオ(6位)しかランキングに登場しないマツダの場合も状況は同じです。スズキにいたっては、ソリオ(15位)、スイフト(19位)の2車種のみでスズキの92%を占めてしまいます。
さて、そこまで状況を整理してみると、12月26日発売予定のトヨタの新車、スモールハイブリッド(車名アクアまたはプリウスC)の動向が、日本の自動車メーカーの勢力図に多大な影響を及ぼす可能性は大変に大きいということがわかります。ホンダ、マツダ、スズキなどの各社が命綱としている車種が、いずれもコンパクトカーであり、アクアへの顧客流出は会社存続の危機と考えていることでしょう。
ホンダは次々と自社のIMAシステムを搭載して、エコカーブームになんとか乗り遅れんとしていますが、一般にはトヨタのTHSシステムに比べ性能面での有意性が無いために決定打となっていません。また、シビックの海外での失敗は、よりフィットへの依存度を高めた要因の一つかもしれません。実際、トヨタを意識してだと思いますが、ここにきてフィットを10周年記念として大いに売りに出しています。
マツダはスカイアクティブ技術でガソリン車の性能向上を目指していますが、デミオの売り上げには現在まで大きな変化はありません。いずれにしても、ガソリンのみという技術は確実に近い将来限界があることなので、レギュラーにはなれず代打の域を脱しないのではないでしょうか。
実用的な電気自動車としては、三菱を抜いて日産がリーフという一つの完成型を提示していることは大きい。しかし、残念ながら、低金利キャンペーンなどをしてテレビCMも増やし宣伝に努めているものの、最近の日産の独特のデザインの嗜好、価格の問題、そして何より充電設備の少なさが消費者に二の足を踏ませている状況です。
トヨタの場合もハイブリッドシステムのTHSは、当然未熟な部分は少なくない。基本的には、発展途上のシステムと言えるわけで、年末に出る予定のプリウスPHV(Plug-in Hybrid)を経て、完全な電気自動車へと移行していく課程にあるわけです。
THSは、よりハイブリッドとしてコストパフォーマンスを上げているため、既存の車種に簡単に載せることができないことがホンダのIMAとは決定的な違い。しかし、2011年現在むこう10年間くらいまでは最良の選択と言えるでしょう。
そのような取り巻く環境を考えて、トヨタの戦略を想像しながらあらためてアクアの価格について考えてみたいと思います。(つづきは明日)
新車登録台数などのデータは、日本自動車販売協会連合会のHPより引用しました。