マイルスは1955年以来、一貫してColumbia Recordsでアルバムを製作してきました。オフィシャルに発売されたアルバムで、この間に他の会社で発売されたのは1958年のBlue Noteから発売された、歴史的名盤''Something Else''とフランスの名作映画「死刑台のエレベータ」のサウンドトラックだけ。
何度かある休養期間があっても、Columbiaはマイルスをじっと待っていました。1975年から1981年までの最長の隠遁生活も、Columbiaはじっと忍耐を強いられていました。マイルスの1981年の復活は、我々ファンにとってもほぼあきらめかけていただけに、Columbiaも最大のミッションとして迎えたことでしょう。
世紀の復帰後、次第にポップ化していくマイルスでしたが、そこで''Kind of Blue(1959)''以来の付き合い、マイルスの分身ともいえるプロデューサのテオ・マセロとの間に溝が広がっていきました。
1986年にマイルスは「ついで」のように''Aura''を作成・・・というより、とにかく早く契約にきりをつけたかったのか、マイルスの音楽史の中でも、最も駄作といわれてもしょうがないアルバムを最後にColumbiaを離れました。
そして、Wernerに移籍して、最初に発表したのがこの''TUTU''でした。タイトルのTUTUはツツ司教(南アフリカ、ノーベル平和賞受賞者)の名前からとったもので、マーカス・ミラーを起用してColumbia時代に手をつけたポップなカラーを完全にマイルス・カラーとすることに成功しました。
ジャズの各時代を先導してきたマイルスにとって、すでにキャリアの後半に入っていることは自覚していたはずです。その中で、ここまで新しくなれる想像力はどこから来るのでしょうか。リアルタイムに聴いた者にとって、驚き以外の何者でもない。
今年リマスターされ、音質もシェイプアップされ、あらためて聴きなおしてみて、25年前の音楽とは思えない斬新さを感じました。今の耳で聴いても、まったく古さを感じません。ただし、これは逆にマイルスを失ったジャズ界は推進力を失い、ずっとマイルスの遺産の中でしか存在していないかようです。
1991年、まったくの突然の死に至るまでの、マイルスの驚異のラストランは、まさにここから始まるのです。何度聴いても、素晴らしい。マイルスを聴く上で、はずせない一枚です。