2019年12月21日土曜日

Hermann Scherchen WSO / Mahler Symphony #9 (1950)

物はついでというわけで、今度は9番の話。

マーラーの交響曲第9番は標準的には80分くらいかかりますが、例えばバーンスタインは公式に5回の録音がありますが、後年になるにしたがって演奏時間が長くなったのはよく知られた話。

バーンスタインの1985年のコンセルトヘボウとの録音では、30分、17分24秒、11分53秒、29分40秒。両端の緩徐楽章にそれぞれ30分かけています。ただし、第3楽章は早めの約12分。速さのコントラストを強く出しているのがわかります。

全体に早めの演奏で有名なクーベリックの第9番は、26分2秒、16分4秒、13分23秒、21分47秒。

それよりも早いのが、21分41秒、16分5秒、12分11秒、20分6秒で、全体で70分を切る演奏をしているのが、またもやシェルヘン君です。

ワルターの1938年の録音もかなり早いのですが、それでも第4楽章には24分47秒をかけていて、全体では69分48秒。シェルヘンはさらに12秒短縮して、世界最短との噂です。

これは第3楽章こそバーンスタインに負けていますが、緩徐楽章は2/3の時間で駆け抜け、情感はかなりそぎ落とされる演奏で、一般的に「死」を強く意識する曲で、最後は「静かに消えるように」終わるはずのところが、失恋のラブソングくらいの雰囲気。

さすがにLPレコード1枚にに入れるには無理がある時間配分ですから、これはシェルヘンの解釈によるものであることは間違いなさそう。バーンスタインを代表とする主観的な情感たっぷり系により近年のマーラー像が作られたことはよく指摘されることで、それ以前の解釈としては珍しいものではないようです。

情感を増やすために、遅くするというのは間違いではありませんが、あえて言うと安易な方法論でもある。マーラーは指揮者として、実演を知り尽くしていた作曲家ですから、本来指定した演奏をはずれないように楽譜への指示が多いことは有名。

マーラーの意図をくみ取った演奏が、ワルターであり、そしてシェルヘンであるかもしれないとするなら、バーンスタインこそ異端であり、異端であるから現代に通用する名演と呼ばれるのかもしれません。