2019年12月5日木曜日

A.S.von Otter J.E.Gardiner / Mahler Zemlinsky Lieder (1993)

一般的なクラシック音楽の作曲家としては、交響曲と歌曲だけを遺したマーラーはかなり特異な存在といえます。ただし、交響曲が総合音楽の状態を呈していて、オペラ、宗教曲、室内楽、時には協奏曲すら含まれているような状況ですから、それぞれを単独に作ろうと思わなかったのかもしれない。

さて、最初の歌曲集である「若き日の歌」は、自筆譜はピアノ伴奏譜だけでしたが、次の「さすらう若人の歌 (Lieder eines fahrenden Gesellen)」以後は、ピアノ譜とオーケストラ伴奏譜の両方が遺されました。

また、マーラー自身が歌手の声域を指定しないため、いろいろなパターンで演奏可能というのもマーラー歌曲の楽しみの一つ。

「さすらう若人の歌」は次の4曲からなります。

愛しい人が嫁いでゆくときには Wenn mein Schatz Hochzeit macht
朝の野辺を歩けば Gingheut' morgen uber Feld
燃えるような短剣をもって Ich hab' ein gluhend Messer
二つの青い目が Die zwei blauen Augen

交響曲第1番と作曲時期が重なり、両者は密接な関係にあります。特に「朝の野辺を歩けば」はほとんどそのまま第1楽章の主要テーマと同じ。第2楽章はごく初期の作曲で、後に改作され「若き日の歌」に「ハンスとグレーテ」として登場する曲が元になっています。そして第3楽章には「二つの青い目が」の後半が用いられています。

4曲で15分程度ですので、単独のアルバムにはなりません。アルバムとしては、他の歌曲集との組み合わせ、または交響曲の余白に入るものになります。

ブーレーズの全集の一環として2003年録音の歌曲もののアルバムがありますが、ここにはトーマス・クヴァストホフのバリトンで「さすらう若人の歌」が収録され、ヴィオレッタ ・ウルマーナのソプラノで「リュッケルト歌曲集」、そしてアンネ・ゾフィー・フォン・オッターのメゾソプラノで「亡き子を偲ぶ歌」が入っています。

フォン・オッターのファンとしては、なんで全部フォン・オッターにしなかったのかと文句を言いたくなるところですが、安心してください、「さすらう」と「リュッケルト」は1993年収録のガーディナー指揮によるアルバムがあります。

「さすらう」は男性歌唱の方が多いように思いますが、そりゃそうです。何しろ第1曲からして元カノが結婚することになって忘れられないボクが嘆く歌。最後まで、元カノを思って悶々としている歌が続くので男性が歌う方がもっともらしい。

そこはさすがにフォン・オッターです。何しろ、オペラのスボン役、つまり男装役が得意のフォン・オッターということを考えれば、この歌曲集もレパートリーにしてしまうのは、自然の成り行きというところ。

女性歌唱で、ドロドロ感は薄まりますが、その分前向きな雰囲気も新たに出てくるので、これはこれでありと思います。