通常は奇数楽章をテノール、偶数楽章をアルトが担当しますが、アルトに替えてバリトンでもマーラー自身がOKにしています。もちろん、男女の声のほうが、違いがはっきりしやすい。
マーラーの死後に初演したワルターは男女を起用しました。また、バーンスタインの場合は、1966年ウィーンフィル盤では、キング(T)、フィッシャーディスカウ(Br)の男性二人に歌わせています。1972年のイスラエルフィル盤だと、コロ(T)、ルートヴィヒ(Ms)になっています。
アバドは2011年にベルリンフィルに客演し、当代一番人気・実力のヨナス・カウフマン(T)とアンネ・ゾフィー・フォン・オッター(Ms)の組み合わせでの映像があります。カウフマンは艶やかで伸びのある声質で、基本的にはリートよりもオペラ向きという印象があります。
とはいえ、さすがにカウフマンの実力は恐るべしという感じ。オッター、アバドとの実力派トライアングルは21世紀の名演と呼ぶにふさわしいのですが、残念ながらCD、DVDなどの一般メディア化されていません。
この曲でテノールの登場は奇数楽章で、合わせて15分程度。一方、アルトは最長の30分かかる最終楽章を含む偶数楽章で、合わせて45分以上になります。ビデオを見ていると、カウフマン君、さすがに手持無沙汰感が否めない。
そのせいなのかわかりませんが、2016年にジョナサン・ノット指揮ウィーンフィルで、何と全曲を一人で歌い切ってしまいました。おそらくこの曲の演奏史上初の試み。ノットは同年、テノール・バリトン版のCDも発売されています。
作曲者の指定を無視しているので、この形式をスタンダードとは呼べませんが、全編一人で歌い切ることは全体の統一感という観点から成功しており、一つの名盤に数えられるものと思いました。