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2013年6月30日日曜日

Paul Badura=Skoda / Schubert Complete Piano Sonatas

ピアノソナタをたくさん書いた作曲家として、すぐに名前が浮かぶのは古い方からハイドン(1732-1809)、モーツァルト(1756-1791)、ベートーヴェン(1770-1827)、そしてシューベルト(1797-1828)の四人。もちろん、スカルラティなどもいますが、様式が違うので区別しておきます。

使う楽器は、ハイドンはチェンバロのイメージ。モーツァルトになるとフォルテピアノ中心。ベートーヴェンは鍵盤がどんどん増えていき、そしてシューベルトの頃には、ほぼ今のピアノの形になっています。

チェンバロとピアノの一番の違いは、弦をひっかくのか叩くのかということ。この差によって、ピアノは音の強弱をつけられるようになったことが、音楽表現の幅を大きく広げたことは言うまでもありません。

最初のピアノは1720年頃に作られたようですが、盛んに作られるようになったのが18世紀後半。特に1790年以後に、5オクターブだった音域がどんどん拡大し、ベートーヴェンの32曲あるソナタは、まさにピアノの改良と共に進歩していくわけです。

1820年頃には、今のグランドピアノの原型がほぼ完成しています。素早い動きが可能となって、この楽器はショパン、リストらのピアノの達人の成果に繋がっていくことになります。シューベルトは、モダンピアノ前夜、フォルテピアノと呼ばれる時代の最後の有名作曲家の一人と言えるかもしれません。

わずか50年たらずの期間に、ピアノという楽器が驚異的な進化を遂げたことで、ベートーヴェンのソナタはピアノの新約聖書とまで呼ばれるようになりました。逆に、そういう偉大な作曲家がいたからこそ、そのニーズに合わせて急速に楽器自体も変化したということなんでしょう。

この時代は、確かに時代と共に生きている音楽だったわけで、クラシックではなくモダンだったわけです。しかし、彼ら偉大な作曲家によって音楽が芸術として高められれば高められるほど、様式が決まってきて、それを変えることは邪道とする風潮が生まれてきます。

その時点で、音楽はクラシックと呼ばれるようになり、進化することを止めてしまいました。これは芸術活動全般に共通する話で、ただの辻芝居だったのが歌舞伎となり古典芸能と扱われるのも同じ理屈なんでしょう。

古楽というのは、クラシックの中でそういう原典主義を先鋭化させたもので、より曲が作られた時代の音、作曲家が頭の中でイメージしていた音楽を聴こうというものです。それはそれで、芸術としての価値があることなので、当然そういう欲求を叶えたくなることは頷けます。

ですから、四人の作曲家のピアノソナタをフォルテピアノで聴きたい、それもできるだけ当時の楽器の音でというのは自然な流れと言えます。比較的若手では、ロナルド・ブラウティハムが有名で、すでにハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの全集を完成させています。

先駆者的なピアニストとして有名なのがパゥル・バドゥラ=スコダで、 1927年生まれですから80歳を超えていますが、今もなお元気に活動しています。特に古典派の音楽学者としても有名で、モーツァルトからシューベルトまでの第一人者です。

バドゥラ=スコダは70年代に、最初のシューベルトの全集を録音していますが、さらに研究を重ねてより正確なピリオド・アプローチのもとに90年代に2度目の全集を完成させました。

使用する楽器は19世紀前半に作られた5台のフォルテピアノで、曲によってふさわしいものを使い分けるという凝りようです。特にびっくりするのは、当時の軍楽隊用に用意された打楽器ペダルを踏みならすことで出てくる太鼓とシンバルが混ざったような音。

2曲で登場するのですが、さすがに一体何がおこったのかと思ってしまいます。これはほとんどチンドン屋みたいな感じで、いくらなんでもやりすぎかと思います。

その点をのぞけば、響きが少なく、音が軽い感じのフォルテピアノの特性をよく考慮した演奏です。また録音も優秀で、そういうフォルテピアノの音を修飾せずに素直に記録しているところが好感を持てます。

シューベルトの未完成のソナタや曲の断片も、可能な限り元の形態を考慮して並べ替えたり、補筆したりして、曲としての完成度を学問的に高めているので、それが本当に正しいのかどうかは別として、シューベルトの残した音符を最大限に音として耳で聞くことができます。

つい最近、長らく手に入らなくなっていたのですが9CDのボックスセットとして、廉価で再発売されました。最初のシューベルトの全集としては不適当だとは思いますが、2つめか3つめのものとしては絶対に聴いておくべきセットだろうと思います。自分も内田光子、ブレンデルの次に来るランクと考えています。