レクイエムは日本語では「鎮魂曲」と訳されることがありますが、カトリックの典礼儀式としては死者の安息を神に願う事が目的であって、死者の魂を鎮めるものではないらしい。
レクイエムと呼ばれるのは、最初の入祭唱(introitus)の歌いだしが''Requiem aeternam (永遠の安息)''となっているからで、鎮魂は神道の言葉であり慰霊を指すのだそうです。
三大レクイエムといえば、モーツァルト、フォーレ、ベルディと相場は決まっているわけですが、モーツァルトに比べて静のフォーレと動のベルディという特徴があるようです。
もともと声楽が苦手な自分としては、もう一つなかなか入れないジャンルに近代フランス物、つまりフランスのロマン派というのがあります。
モーツァルトは耳に残るメロディがたくさんあって、悪く言えば「キャッチャー」な音楽ですが、フランスものは芸術性が高いといえば聞こえはいいのですが、なんかもやもやした霧の中にいるような・・・まぁ、要するにメリハリが感じられない。
絵画で言う「印象派」と共通の話ですが、墨絵に淡い色彩を加えた感じで主題もその中に巧妙に埋め込まれていて、あまり自分を主張しすぎないとでも言いますか、うーん、聴いていてちょっと辛いものがある。
代表的な作曲家としては、フォーレ、ドビッシー、ラベルなどがあげられますが、何度も挑戦してはいますが、なかなか好きになれないところ。まして、いくら有名だからといって、フォーレのレクイエムとなると、かなりハードルが高いところにあるわけです。
フォーレのレクイエムは、もともと自分の両親の死に対して内省的に作られたものといわれ、教会のために作られる通常のミサ曲とは趣が異なります。最初は5曲のみで、楽器編成もかなり少ない、どちらかというと室内楽として作られました。
その後2曲が追加され、若干の楽器の補充があり、フォーレとしては完成形になったのですが、それでもかなり特異な編成のため、演奏機会がないと判断した楽譜の出版社がフォーレの弟子に普通の編成に直させたということらしい。
ですから、5曲の第1版、7曲の第2版、フルオーケストラの第3版という具合に3つの版が存在し、多くは最後の第3版が演奏されているという状況です。
さてここでも、一定の高い評価を受けているガーディナーさんのお世話になろうと思います。フォーレの時代までくると、あまり古楽器にこだわる必然性はだいぶ希薄になってくるのですが、ガーディナーが使用するのは当然第2版です。
ガーディナーもそのあたりは当然わかっていて、合唱は手兵のモンテヴェルディ合唱団を使っていますが、オーケストラはロマン派専門のオルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク、またピリオド奏法についてもあまり強調しない感じ。
とにかく、ひとつひとつが美しい・・・静寂の世界とでも言いますか、冬の湖に、春の気配が少しだけ混ざった緩やかな風が吹いて、微妙に湖面を揺らす感じ。ただ、湖にかかる木々からは一滴のしずくも落ちないので、一切よけいな波紋は起こらない。
おそらく、大きなスピーカで、暗くした部屋でゆったりとソファにでも座って聴きたくなるような印象でしょうか。今の自分の耳には、とりあえず最後まで聴けただけでも進歩があるんですが、やはりフランス物で声楽というのは、まだまだ距離がかなりあるなぁと感じてしまいました。