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2014年2月13日木曜日

Daishin Kashimoto / Beethoven Complete Violin Sonatas

基本的に西欧で発展したクラシック音楽は、日本人のような異教徒にとっては、どうしても他人の家にあがる感覚というものがある。まして、演奏家が認められるということは、そうとうな天才と努力の両方が必要なのかもしれません。

クラシック音楽界に身を投じた日本人はたくさんいますが、世界から認められる存在は数えられるほどしかいません。作曲家では武満徹くらいしか思いつきませんし、指揮者なら小澤征爾、ピアノは内田光子、小川典子、バイオリンで五嶋みどりくらいでしょうか。

1999年に20歳でデヴューした樫本大進は、この数年最もめざましい活躍をしている日本人バイオリニスト。もっとも日本にいた時間はほとんど無いんじゃないかと思うくらい、海外での生活が中心。

最初に日本で名前が知られたのは、NHK大河ドラマ「利根とまつ」(2002)の音楽でしょうか。自分が注目したのはフランスのピアニスト、ル・サージュのシューマン・プロジェクト(2010)への参加でした。

シューマンの室内楽での、研ぎ澄まされたバイオリンに魅了された人は世界中にたくさんいたのではないでしょうか。ソロ、室内楽で着実に実力を磨いてきた樫本が、世界中、そして日本でも大喝采で知られることになったのがベルリンフィルへの参加でした。

それもベルリンフィルの第一コンサートマスターへ2010年12月に就任したわけで、これはもう日本のクラシック音楽界としては快挙としかいいようがありません。コンサートマスターということは、歴史のあるベルリンフィルのバイオリンのトップ、首席奏者ということです。

その樫本が、コンサートマスター就任後に始めた最初の大きな仕事が、ベートーヴェンのバイオリンソナタの全集録音でした。ベートーヴェンでは、ピアノは伴奏という枠には収まらず、対等なせめぎあいが魅力。コンスタンチン・リフシッツがその相棒として参加。

自分は知っている中で最もお気に入りで、スタンダードの位置にあるのがクレメールとアルゲリッチの演奏です。ムターはバイオリンが目立ちすぎ、 デュメイはおとなしい。イブラギノヴァは若さの勢いで大注目というところ。

さて、10曲あるソナタの中で、必ず最初に聴いてみるのが第9番です。通称「クロイツェル」で親しまれるこの曲は、まさにバイオリンとピアノの絡み合いがすさまじく、演奏者は高度の技術と感性を要求される永遠の名曲です。

まず最初の印象は、遅い。その分、バイオリンの音色をしっかりとコントロールしていこうという姿勢が見えてきました。全体的には悪くはないのですが、丁寧すぎる感は否めない。

コンサートマスターの立場から離れての個人の録音ではありますが、立場上あまり遊べないのかもしれません。もう少し冒険する部分があってもいいかもしれない、というところでしょうか。

後世に残る名盤とは言えませんが、バイオリン奏者にはベートーヴェンのバイオリンを攻略するお手本としては推薦しやすい。聴くだけの人にも、最初にお勧めするにはいいかもしれません。樫本はまだまだ30歳代なかば、これから更なる活躍が期待される逸材であることは間違いありません。