2017年7月1日土曜日

Ivry Gitlis & Martha Argerich / Live from Beppu Argerich Festival

ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの一番の特徴は・・・なんて、偉そうに言えるほどわかっちゃいないんですけど、きっとピアノが伴奏だけにとどまらず、やたらとしゃしゃり出てくるところ。

ヴァイオリンを弾く側からすると、主役を奪われたみたいなところもあるんですけど、「ヴァイオリン助奏付ピアノ・ソナタ」と呼ばれることがあるくらいです。

となると、ヴァイオリンの腕だけでなく、むしろピアニストの技量が演奏の良し悪しに大きくかかわってくるわけで、生半可なピアノ演奏では台無しになってしまうというものです。

有名どころのヴァイオリン奏者は、気の合ったピアノ伴奏者が固定されていることが多い。普通のヴァイオリン・ソナタなら、息もぴったりで安心して聴けるというメリットがある。

ところが、ベートーヴェンになると、その安心が逆につまらなく、もっとピアノの突っ込みが欲しいなぁとか、お互いの火花が散るような盛り上がりが足りないと思ったりします。

10曲あるソナタの中で、一番のお気に入りは9番「クロイツェル」なんですが、これはまさにヴァイオリンとピアノがガチンコ勝負をする名曲だろうと思います。

最初に記憶に残る演奏として聴いたのは、クレメールとアルゲリッチ盤で、ともかく何でこんなにアルゲリッチのピアノが突っかかっていくんだろうと思いましたし、そのあたりの緊張感が楽しい。

クレメールの演奏の特徴は弱音の美しさにあると(勝手に)思っているんですが、クレーメールの強弱の変化に応じるアルゲリッチの反応の素早さは凄いものだと思います。

そうなると、この二人の演奏が自分の中での「クロイツェル」の標準になってしまうので、それ以後聴いた他の演奏は可愛そうなことに超えるためのハードルは相当高くなる。実際、お気に入りのイブラギノヴァでもこれは越えられない。

あまり昔の有名どころは知らないのですが、いくつか聴きましたがいずれもクレメール&アルゲリッチを超えることはできていません。

しかし、ついに久しぶりにドキドキする演奏に出会ったんですよね。それが、イヴリー・ギトリスの演奏です。でもって、ピアノは・・・やっぱり、アルゲリッチだぁ。

これは、演奏されたのは日本、別府。アルゲリッチの名を冠する音楽祭がずっと開かれているんですが、1999年のステージから収録された日本独自盤。

CDのタイトルの「奇蹟のライブ」というのにうさん臭さを感じていたために、手を出していなかったんですが、最近アルゲリッチ収集で手に入れました。

当然、すでに廃盤になっているので、価格は以前に見つけた時より高め。日本独自のものなので、海外のボックスなどに含まれることはないので、安いと思ったら単品で中古を買うしかありません。

とにかく凄い。強弱のクレメールと違って、テンポのギトリスとでも言うんでしょうか。こんなに好き勝手に弾く「クロイツェル」は初めて聴きました。もう、ぶっ飛びものです。

ギトリスは自由自在にテンポを落としたり早めたり、ぎりぎりまで崩し気味のところから一気にたたみかけるように盛り上がるのは、教科書にはほど遠く、でもそこがやたらと楽しい。

そして、この予想不可能なヴァイオリンに見事にぶつかって、まったく動じないピアノ・・・これこそ、アルゲリッチの天性の感覚で、最大の魅力なのだろうと思います。