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2020年10月9日金曜日

Toshiko Akiyoshi & Lew Tabakin Big Band / Insights (1976)

秋吉敏子は、アメリカで最初に成功した日本人ジャズ・プレイヤーと言えます。秋吉敏子の活躍が無ければ、今の上原ひろみらの活躍も生まれなかったかもしれません。

1950年代はじめ、伊勢崎町の「モカンボ」における伝説的となったセッションの中から頭角を現し、1956年に単身渡米。チャーリー・ミンガスに認められ、表舞台に登場しました。

初期のピアノ・トリオは、当時のジャズとして水準以上の出来栄えで、日本人である身びいきを取り除いても十分に傑作と言えるものでした。

しかし、秋吉敏子の名前をジャズの世界で決定的にしたのは、やはり二番目の夫であるルー・タバキンと70年代に結成したビッグ・バンドであることは疑いの余地がありません。

デューク・エリントンやカウント・ベイシーらを代表とするビッグ・バンドは60年代以降衰退し、スモール・コンボによるハード・パップ、ジャズ・ロックなどがジャズの世界を席巻しましした。

ビッグ・バンドでは経済的にお金がかかる大所帯、そしてアンサンブルを重視して火の出るアドリブ合戦は減ってしまうなどの欠点があります。

しかし、1974年に発表されて最初のアルバム「孤軍」は、独特な世界観を醸し出しつつ、タバキンのテナーと自らのピアノをバランスよく配置したソロにより日本だけでなく、アメリカでも大評判になりました。

彼らの5枚目となる「インサイツ」は、和楽器も融合させて、その成果が最も端的に結晶化したアルバムとなりました。

冒頭まずスイングするピアノ・トリオから聴き入っていると、次第にブラス・セクションが入って来て、ビッグ・バンドらしい楽しさがストレートに伝わってきます。

3曲目の「墨絵」は、まさに単一の「和」のテーマを繰り返し、白黒の世界を何度も何度も塗り込んでいく様は、その中から次第に万華鏡のように色彩が浮かび上がってくるようで見事としかいいようがない。

そしてLPレコードでB面全てを使う大作の「ミナマタ」は、日本の経済的発展の犠牲になった公害で苦しむ水俣をテーマにしています。秋吉敏子の娘、Monday満ちるが歌うオリジナルの童歌がテーマとなり、平和~繁栄~破壊を綴っていきます。

伝統的なビッグ・バンド・ジャズと秋吉敏子の世界が見事に融合したアルバムとして、秋吉敏子の代表作としてだけでなく、ジャズ全体の中でも高く評価されるべき作品であると言えると思います。