2025年11月13日木曜日

子供はわかってあげない (2021)

沖田修一の監督作品としては、劇場用第9作目になり、当然脚本も自ら担当しています。予定では2020年公開予定でしたが、コロナ渦の影響で1年遅れになっています。本来は、「おらおらでひとりいぐも」で老人、本作で若者を扱い、ほぼ同時公開を考えていたようです。とはいえ、両作品にはそれほど共通点はありません。

原作は田島列島で、沖田作品としては初めてマンガ作品が取り上げられました。冒頭、「魔法左官少女バッファローKOTEKO」というオリジナル・アニメが登場して、「あれ? 見るものを間違えた」と思ってしまうかもしれません。

高校2年生で、水泳とアニメ一筋の生活を送る朔田美波(上白石萌歌)は4人家族。父の清(古舘寛治)とはアニメ趣味も同じで仲が良く、母の由起(斉藤由貴)も明るく理解があります。大好きなアニメが同じだったことから、美波は同級生の門司昭平(細田佳央太)と仲良くなります。

美波は、偶然に昭平の家にあったお札が、高校生になった時差出人不明で自分宛てに送られてきたものと同じであることに気がつきました。書道家である昭平の父が書いたもので、新興宗教の「光の函」のお札であることを知った美波は、昭平の兄で探偵っぽいことをしている明大(千葉雄大)を紹介してもらいます。

実は母は子連れの再婚で、美波は本当の父親との記憶はありませんでした。お札は父親から送られてきたものかもしれないと考えていた美波は、「藁谷」という苗字だけを頼りに父親の捜索を頼むのでした。明大は教団の線から教祖である藁谷友充(豊川悦司)を割り出し、今は教祖を辞めて海辺の町で整骨院の手伝いをしていることを調べ上げます。

美波は水泳部の夏合宿の期間に、両親には黙って友充を訪ねることにしました。整骨院は友充の実家で、美波が会いに来たことを歓迎します。二人は湿っぽい話はせず、美波は友充が可哀そうだからと夏合宿への合流を先延ばしにして留まることにしました。

友充は自分には自然に人の心を読む能力が身についていたので教祖に祭り上げられたが、それを教えても誰もできなかったため教壇を抜けたと語ります。さらに友充は、姪の小学生の仁子が泳げないので水泳を教えてあげるよう美波に頼みました。仁子は少しずつ泳ぎが上達しているうちに、夏合宿期間が終わろうとしていました。美波がまったく合宿に現れないことを知った昭平は、何かトラブルになっているのではないかと心配し、美波の行き先に急ぐのでした。

昭平は自宅で小学生相手の書道教室で先生をしていて、それを見た美波は感心するのですが、昭平は「教えられたものを教えるのは簡単だよ」と返していました。美波は水泳を人に教えたことはなかったのですが、仁子に教えることを頼まれたときにその言葉を思い返します。

一方、友充の「特殊能力」は、誰かに教えてもらったものではないので、美波が教えてもらってもまったくどうにもならないのです。この映画のポイントはそこのところで、人は様々な事柄を教えてもらい成長し、そしてそれをまた誰かに教えていくことで継承されていくのだということ。

現代っ子なのか、記憶にない父親と再会しての、美波の反応はドライな印象を受けます。今になってヒントになるお札を送ってきた理由は尋ねますが、何故母と離婚したのか尋ねないし、10年以上の空白があるにしては打ち解けすぎじゃないかと感じました。もっとも、そこを突っ込んでいくとお涙頂戴的な悲壮感とかも出てきてしまい、沖田カラーとは異質の展開に行ってしまいそうです。

むしろ、過去は横に置いて、前向きに父親との時間を取り戻すことに集中したということ。同時に、こどもは急速に距離を縮めることができるのに対して、大人はこどもの好きなものをそろえたりしてそれなりに四苦八苦している。「親の心子知らず」的なところが、タイトルの由来なのかもしれません。

今回も、基本ほのぼのとした「ハート・ウォーミング」なストーリーを目指しているので、いつものカットを減らして長回しでゆったりとした間を活かした「らしさ」は十二分に堪能できます。そういう意味では一つのシーンが長いので、俳優陣は大変だったろうと思いますが、若手陣はなかなか頑張ったと言えそうです。