1951年、日本初のカラー映画として公開されたのが木下惠介監督、高峰秀子主演の「カルメン故郷に帰る」でした。東京のストリッパーが錦を飾るつもりで故郷に帰って騒動になるというストーリーですが、タイトルからしてモヒカンはカルメンに対するオマージュであることは間違いない。
監督・脚本は沖田修二で、広島県呉市の瀬戸内海の小島で撮影されました。島の美しい風景と暮らす人々の素朴な心情をはさみながら、しばらくぶりに故郷に帰って来た長男と父親の関係をユーモラスに描くハートフル・コメディです。
東京でデスメタルバンドのボーカルをしていてモヒカン頭がトレードマークの田村永吉(松田龍平)は、妊娠した婚約者の会沢由佳(前田敦子)を紹介するために、故郷の瀬戸内海の戸鼻島に帰ってきました。
永吉の父親である田村治(柄本明)は、若い頃から矢沢永吉の大ファンで、ずっと面倒を見ている中学の10人しかいない吹奏楽部には矢沢の「アイ・ラブ・ユー、OK」を演奏させていました。母親の春子(もたいまさこ)は広島カープの大ファンで、弟の浩二(千葉雄大)も定職についていませんでした。
モヒカン頭は気に入らないものの、治はとりあえず長男の結婚祝いの宴会を開きます。しかし、その夜治は倒れ、肺がんの末期であることが判明するのでした。永吉は家業の酒屋を手伝い、由佳も島に馴染みましたが、治も春子も二人に東京に帰るように勧めるのでした。一度は連絡船に乗って島を離れたものの、二人は宮島観光をしただけで戻ってきます。
治の病状は悪化していましたが、痛いのは嫌だからと大きな病院に行くことはしません。永吉は、治の思い出のピザを取り寄せたり、吹奏楽部の連中にノリノリの矢沢永吉を演奏させたり、矢沢の扮装で治のベッドの横に立ち治を喜ばせたりします。そして、治の最後の願いで永吉と由佳は結婚式をあげ、その晴れ姿を見せることにするのでした。
父親が死の病に侵され、しばらく父との対話か無かった息子が父を助けるために奔走するみたいなベタな展開はありません。登場する人々は、良いことも悪いこともそのまま受け入れて、特に頑張るわけでもなく、それでもやさしく見守るのです。
モヒカン頭で変わり果てた息子はともかく、初対面の息子の彼女(少なくとも両家の子女ではない)に対してすら、そのまま受け入れることができるのはなかなかできるものではありません。でも、それがまったく普通のことに思えるのは作品の持つおおらかな雰囲気の賜物と言えそうです。
沖田監督作品としては、ストーリーがわかりやすく作られているように思いますが、死に向き合いつつも、日常的な自然に発生するユーモアをうまく挟み込んでいるところは、この監督らしさだと思います。同じキャストで、続編なんかも見たいものだと思いました。
