今年の春の話題作。話題の理由の一つは、監督が塚原あゆ子というところ。飛ぶ鳥を落とす勢いというのは、最近の塚原に相応しい表現で、2024年だけでも公開された映画は「ラストマイル」と「グランメゾン★パリ」があり、テレビでも大作となった「海に眠るダイヤモンド」がありました。もう一つの話題性は脚本の坂元裕二によるオリジナル・ストーリーだということ。1991年の「東京ラブストーリー」以来、時代の空気を的確に読み込んだ脚本の数々でいつも注目を浴びてきました。
さらに主演がもうベテランと呼ばれるようになった松たか子と「夜明けのすべて」で見事な演技を見せたSixTONESの松村北斗という、18歳差のカップルというのも驚かされました。しかし、年の差があるからこその、ほろ苦さの残るSF的なロマンス映画になりました。
硯カンナ(松たか子)の演劇舞台の美術スタッフとして働いていますが、最近、夫の硯駈(松村北斗)との関係はぎくしゃくしていて、ついに離婚することになります。駈が離婚届を持って仕事に出かけた日、カンナは一本の電話により駈が死んだことを知らされるのでした。駅のホームでベビーカーが線路に転落し、助けようと飛び降りた駈は入って来た電車に轢かれてしまったのです。
しばらくして、舞台の不備で呼び出されたカンナは、首都高のトンネルから出ると、見知らぬ場所にいました。車を置いて田舎道を歩いていくと、立派なホテルにたどり着きます。そこは、15年前に駈と初めて出会った場所で、しかも若々しかった本人と再び出会うのでした。
カンナは、出会った頃の楽しかった日々を思いだし、何度も首都高からタイムスリップをして、駈との初めて出会いを体験します。そして、何とか駈が死なずにすむように、いろいろと違った行動や会話をして、未来を変えたいと思うのでした。しかし、現実に戻るとどうやっても駈が死んでしまう事実は変わらないのです。
そして、駈を死なせない方法としてカンナが導き出した結論は、二人が結婚しないということでした。再びタイムスリップしたカンナは、駈と関係が生じないようにしようとしますが、駈はその時代のカンナを見つけ驚き、また未来のカンナが落とした「2024年 駈死亡」のメモを拾ってしまうのでした。
出会った頃は、あれほど楽しかった二人の生活が、時を重ねて冷めていく様子がたんたんと描かれるシーンがあり、「初めはお互いにいいところばかり探すが、しだいに悪い所ばかりを探すようになるのが結婚」というセリフは、真実を含んでいるように思います。そうなる未来を先に知っていれば、それを回避して修正するポイントはたくさんあるのでしょうが、現実には難しい事です。
若い時の気持ちに戻って、改めて駈に恋するようになっていくカンナの気持ちは切ない。何しろ15年後に二人がどうなるのか知っているし、そもそも駈の運命もわかっている。カンナは何度も何度も最初の出会いを繰り返しますが、駈は毎回初めてのカンナとの出会いになるので、駈にとってはどんどんカンナの変人度合いが大きくなっていくのです。
若い時の松たか子は、本当に若い。それほど多くのシーンがあるわけではないので、おそらくCG処理をしているのだろうと思います。一方、現実の中年になった駈はメイクだろうと思いますが、こういうところは20世紀の映画では嘘っぽくなったと思いますが、今の技術は見事に成立させてしまうのが凄い。
若い頃の駈の恩師にリリー・フランキー、その娘で駈が好きな娘に吉岡里帆、現代のカンナに若いながらアドバイスをする仕事仲間に森七菜などが登場します。リリー・フランキーが「タイム・マシンがあったら、若い人は未来を見たくなり、年を取ると後悔を正すため過去に戻りたくなる」とコメントしているのはさすがです。
この不思議なストーリーの結末はどのように締めくくるのか気になる方は必見ですが、単純な恋愛物ではないので「なるほどそう来るか」と塚原・坂元コンビニ感心してしまいました。
