2025年11月21日金曜日

イチケイのカラス (2023)

2021年にフジテレビの連続ドラマとして放送された「イチケイのカラス」は、最終話で主人公の法曹界トップに反旗を翻した入間みちおは熊本に左遷されました。2023年に、入間みちおが東京を去って1年後のストーリーが、スペシャルドラマとして放送されています。もう一人の主人公である坂間千鶴は他職経験制度というシステムにのっとって一時的に弁護士業務を行っていました。

そして、その流れで劇場版が公開されました。入間みちお(竹野内豊)は熊本から岡山県秋名市に異動し支部長となっています。坂間千鶴(黒木華)は秋名の隣町である日尾美町で弁護士の職に就いていました。

日尾美町から出発した貨物船が、海上自衛隊イージス艦に衝突・沈没する事故が発生します。すべては貨物船船長の島谷の責任となり、納得できない船長の妻・加奈子(田中みな実)は、葬儀に訪れた政府関係者に包丁を向けてしまい逮捕されてしまいました。

その裁判の担当となった入間は、防衛省が事件の詳細を隠匿しているため、正当な判決を出せないと考え、伝家の宝刀「職権発動」により再捜査を開始しますが、防衛大臣(向井理)からの圧力により裁判長を下ろされてしまいます。

一方、坂間千鶴は、日尾美町の町そのものと言っても過言ではないシキハマ株式会社の工場に環境汚染の疑いがあることを知ります。坂間は人権派弁護士といわれている月本信吾(斎藤工)と協力して、その証拠を集めるのですが、いろいろな嫌がらせを受け、アパートは放火され、ついに月本は殺されてしまうのでした。

坂間は、何とか健康被害の民事裁判に持ち込みますが、なかなか決定的な証拠をつかめないでいました。その裁判の担当となった入間は、独自の調査によって貨物船事故と工場の環境汚染を結びつける証言を得ることに成功したのです。

かつてのイチケイのメンバーたちは、ちょっとずつのサービス出演という感じで、ほぼ竹野内豊と黒木華による展開になっています。周りを固めるのは、日尾美町の医師として吉田羊、秋名裁判所の若手裁判官に柄本時生と西野七瀬、シキハマ工場長には平山祐介、シキハマの弁護士に尾上菊之助らです。

ドラマの刑事事件と違って、民事訴訟がメインなので対決するのは弁護士同志で、裁判官の挙動もドラマとは異なります。ドラマとスタッフはほぼ共通で、脚本は浜田秀哉。監督は田中亮ですが、劇場版となって事件が起きた深い人間関係を掘り起こすような展開となっています。

そういう意味では、リーガル・エンタテイメントとしての痛快感は薄れてしまったのが残念な感じがします。また、一見関係ない二つの事件が次第に結びつくところに注力していますが、貨物船事件は無くてもいいような感じで、日尾美町の問題に集中した方がヒューマン・ドラマとしては深みが出たような感じがしました。