2025年11月4日火曜日

キツツキと雨 (2012)

沖田修二の監督・脚本による自身の長編映画第3作で、大御所俳優をキャスティングした見応えのある作品になっています。しかも、新人監督としては上映時間2時間の壁を突破した129分は立派なものです。

林業を営む岸克彦(役所広司)は、昔ながらの職人気質の頑固一徹な人物。2年前に妻に先立たれ、定職につかない25歳の息子・浩一(高良健吾)と二人暮らし。

村にゾンビ映画の撮影隊がやって来て、克彦は偶然に彼らの手伝いをする羽目になってしまいます。仕切っているのは助監督の鳥居(古舘寛治)で、一緒にいるのに何も動こうとしない若者に克彦は説教をしてしまいます。

その若者、田辺幸一(小栗旬)は、実は自分に自信が持てない25歳の若手監督で、この作品も自分の意見が言えずスタッフの言いなりになっていたのです。幸一は現場から逃げ出そうと、克彦に駅まで送ってもらいます。車の中で、克彦がしつこくあらすじを聞いてくるので台本を渡してしまいます。しかし、駆けつけてきた鳥居に捕まり、幸一は連れ戻されてしまいました。

克彦が家に戻ると、幸一が身支度をしていて、東京に行くと言い捨てて出ていってしまいます。幸一は、克彦の家に台本を返してもらいに行きますが、何となく克彦は幸一の立場が想像できるのでした。それから克彦の声掛けで村中からエキストラが集められ、少しずつ映画の体裁がまともになっていくのです。

幸一は克彦の応援してくれる声が頭の中に聞こえる気がして、少しずつ自信をつけていくのでした。

ゾンビ映画のキャストとして、山崎努、平田満、臼田あさ美、スタッフには嶋田久作、黒田大輔、克彦の仕事仲間に伊武雅刀、高橋努などが登場します。高良、嶋田、黒田などは沖田作品には何度も登場しています。

沖田監督の特徴として、とても静かな長い間合いがあります。今作でも、ぎりぎり長過ぎない間合いによって、説明セリフに頼らず人物の心情などをうまく表現しています。もちろん、そこは言葉に頼らない俳優の演技があってのこと。

撮影でも、カットは多用せず一つの画面に中に、会話をしている二人を同時に映しこむことで、流れを途切れさせない演出が目立ちます。音楽は控えめで、簡単音楽で盛り上げようとするような姑息な手段は使われません。このことで、むしろ映像の中に没入できる感覚になります。

当時30代半ばの沖田監督は、おそらく幸一に自分の分身を投影していたのかもしれません。そして、息子の浩一とうまく折り合えない克彦と、おそらく父親とうまくいっていない幸一の関係を重ねてくることで、父と息子という家族のつながりが描かれているのだと思います。