新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、2020年はついにステージに立つことができなかったボブ・ディランでしたが、6月にニュー・アルバムをリリースして御大健在ぶりを見せつけました。そして12月に、自身がこれまでに発表した600曲以上の楽曲の音楽出版権(パブリッシング・ライツ)をユニバーサル ミュージック グループに完全売却したことが発表されました。
契約額は3億〜4億ドル(約300億〜400億円以上)規模と報じられ、音楽業界で大きな話題となりました。これは、言ってみれば「終活」のようで、そのまま自分で権利を保持していた場合、その相続には莫大な費用がかかるため、むしろ現金化した方が有利という判断のようです。
パンデミックで活動を大きく制限されたミュージシャンの多くは、2021年になると無観客ライブを行いネットで配信することを始めました。日本でも同様の趣旨のライブ配信がたくさんありましたが、正直に言うとライブは観客の反応込みで成立することがあらためて理解できました。無観客はそれなりに面白いところはあるのですが、ミュージック・ビデオを見ているようで、ノリノリの熱気みたいなものは生まれてきません。
そんな中で、ディランは5月についに80歳の大台の誕生日を迎えます。そして7月18日に配信ライブを公開しました。事前の情報はかなり限定的で秘密に包まれていたのですが、いざ蓋を開けると無観客ライブではなく、作り込んだ映画のような映像美のもと旧曲を新たなアレンジでディランが歌うという内容でしたが、凝った演出を含めて高い評価を得ることになりました。
詳細なクレジットが公開されていないため、その制作過程については不明な点が多い。間違いないのは、白黒の美しい映像を完成させたのはアルマ・ハレルで、多くのミュージック・ビデオ作品で高い評価を得ているイスラエル出身の女性の映画監督です。
参加したミュージシャンたちのコメントなどを総合すると、そもそもの音源のレコーディングはロサンゼルスで、1月から3月にかけて行われたようです。注目すべきは、ディランのバンドとしては初めてドラムレスというところです。全体のリズムをリードしているのはアコーディオンで、アップライトのウッド・ベースが低音域をしっかりとカバーしています。
そして出来上がった音楽を、映像として完成するためにサンタモニカのスタジオにセットが組まれ、架空のマルセイユにあるレトロな「The Bon Bon Club」のステージにディランが登場するシーンが1週間ほどかけて撮影されました。興味深いのは、この映像に登場するミュージシャンはすべて本物で、例えばベースのジェイニー・コーワンは今最も注目の女性ベーシストですし、アコーディオンのアレクサンダー・バークは売れっ子ミュージシャンです。
映像では彼らは事前に録音された音源に合わせて、演奏する「演技」をしているのです。いわゆる口パクみたいなもので、フィンガーシンクロと呼ぶようです。ですから、最後のクレジットでは「Player」となっていて、「演奏者」というより「演技者」のニュアンスが強い。ただ好きなように歌うディランが口パクするのは、何か無理がありそうな気がするので、ディランだけはその場で歌っている可能性は十分ありそうです。
いずれにしても、このような手の込んだ手法は、パンデミックの影響で必要な人材を好きな時に好きなだけ集めることができないための、苦肉の策というところかもしれませんが、その分映像に登場するミュージシャンには余裕があって、いろいろと画面に合った動きを無理なくできたという利点があったのではないかと思います。
音楽としては、「昔の曲の焼き直し」という否定的な意見も散見されますが、全般的には好意的な意見が多い。実際、確かに「The Early Songs」というサブタイトルがついているぐらいですが、まったく今まで聞いたことがない新しいバンド・サウンドで、元の曲の名残を残しつつも再構築された楽曲は聴き応えがあります。
老齢の域に入ったディランは、自分のルーツ音楽を再生する作業を続けてきたことを考えると、ついにその矛先が自分そのものに向かったと考えれば、この企画は十分に納得できるものだと思います。2023年6月に、この映像のサウンド・トラックとしてCDが発売されました。
2021年11月にはライブ・ツアーが再開され、「Rough and Rowdy Ways World Wide Tour」と名付けられました。ライブの傍ら、2022年11月に他人の楽曲の魅力を掘り下げた「Philosophy of Modern Songs」を出版しています。2023年は待望の日本公演も行われ、2025年2月に伝記映画「A Complete Unknown」が公開され、その存在が世界から再注目されました。2026年も、85歳になりましたが相変わらずステージに立ち続けており、年内はびっしりライブの予定が詰まっています。
When I Paint My Masterpiece
Most Likely You Go Your Way and I'll Go Mine
Queen Jane Approximately
I'll Be Your Baby Tonight
Just Like Tom Thumb's Blues
Tombstone Blues
To Be Alone with You
What Was It You Wanted
Forever Young
1Pledging My Time
The Wicked Messenger
Watching the River Flow
It's All Over Now Baby Blue
Sierra's Theme
Bob Dylan (vo, g, harmonica)
Players :
Players :
Alexander Burke (accordion), Buck Meek (g), Shahzad Ismaily (g)
Janie Cowan (b), Joshua Crumbly (g)
MUsicians :
MUsicians :
Jeff Taylor (accordion), Greg Leisz (g, pedal steel guitar, mandolin)
Tim Pierce (g), T-Bone Burnett (g), Ira Ingber (g)
Don Was (aco.b), John Avila (ele.b), Doug Lacy (accordion)
Steve Bartek (aco.g)
Janurary ~ March, 2021, Los Angelses
☆☆☆☆☆☆☆☆・・
Janurary ~ March, 2021, Los Angelses
☆☆☆☆☆☆☆☆・・
