先日、自分のクラシック音楽の教科書と仰ぐ文春新書の「クラシックCDの名盤」の新刊が発売されました。今回は演奏家編で9年振りの改訂新版で、主に名だたる指揮者、ピアノ奏者、弦楽器奏者を中心に興味深い内容となっています。
特にピアノ奏者については、一番興味深いところですが、どんな新しい人材が加わっているかが新版として気になるところ。ピアノの部の最後に掲載されたのが、2005年のショパン・コンクール優勝者であるラファウ・ブレハッチという青年。
ショパンと同じポーランドの出身で1985年生まれ、まだ20代半ばの新進気鋭のピアニスト。
この本では、クラシック音楽批評では有名な3人が好きに意見を書いているのが楽しいのですが、時には巨匠と呼ばれるような奏者も一刀両断にされていることも珍しくない。
ところがブレハッチについては3人がべた褒めで、否が応にも気になる存在です。そんなわけで、今回はまだ聴いたことがない音楽ですが、高まる期待によってエントリーしてみました。
それにしても、ちょっと気になったのはショパン・コンクールが権威を失ってきたという話。東西冷戦が終結して、莫大なお金がかかるこの手のコンクールにかなり商業主義がはびこり始めたのはうなづける。
スポーツの世界も同じで、オリンピックはまさにそのいい例でしょう。確かに80年代を境に優秀な若手ピアニストの台頭が少ない。というか、ほとんどないと言っていい。
何かが足りなくなっているんでしょうけど、自分のような素人にはよくわかりません。ショパン・コンクールで優勝しても、結局後に残れる逸材がきわめて少ないという状況なのでしょうか。
昨夜NHKで今年のクライバーン・コンクールで優勝し話題になった全盲の辻井くんのドキュメントを放送していました。
その中で関係者が繰り返し言っていたのが、「今完璧でなくても、これから伸びていく素材を探し出し援助することが目的」のコンクールであるということ。
確かに辻井くんをはじめ出場者の演奏は、断片的ではありますが若くていきがいいのですが、勢いにまかすような演奏ばかりでした。
コンクール会場の雰囲気の中で聴けば、興奮するような演奏だとは思いますが、家でCDでゆっくり聴きたいかというとちょっと遠慮したい。辻井くんも、ベートヴェンの「ハンマークラヴィア」のような超大作を披露したりしています。
ブレハッチがすごいと思うのは、優勝後から継続的に注目され続けているピアニストであるということです。最近の情勢では珍しいわけで、逆に人気が先行して過去に消えていったピアニストの例もあるので、ちょっと心配もあります。
辻井くんの場合は、まだまだこれからということが前提にある優勝だということは、本人も十分に承知しているでしょうから、ゆっくりと成長してもらいたいと思うわけです。