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2010年5月13日木曜日

リウマチ薬メソトレキセートの副作用

関節リウマチの治療薬は21世紀になってから劇的に変遷しているということは、これまでにも幾度となく書いてきました。一番大きな変化は、メソトレキセートと呼ばれている抗がん剤が使用されるようになったことと生物学的製剤の登場でしょう。

メソトレキセートは1999年に発売されたとき、製薬会社の方が医者のところに薬の説明に来て、確かに説明を聞いたというサインを取っていきました。こんなことは初めてのことでした。医者は基本的には認可され市販された薬は自由に使用することができるのです。それだけ、危険を伴う可能性のある薬ということで、医薬品の世界で危機管理という考え方が登場した最初の薬ではないでしょうか。

現時点では世の中のリウマチ専門医の興味が、生物学的製剤に集中していることは事実ですが、第一選択役としてメソトレキセートの価値は減じることはありません。薬の値段が高いため、誰でも自由に生物学的製剤を使用できるとは限りませんし、しっかりと使用できればメソトレキセートだけでもかなりのリウマチ患者さんの状態を改善できるものと考えられているのです。

しかし、やはり薬の危険性というものも減っていないということも間違いありません。抗がん剤として使用する場合には、患者さんに投与してもしも1週間ほおっておけば、必ず死にいたるのです。使用した後は、患者さんの状態を保つために、医者は1週間必死にフォローを続けないといけないわけで、大変医者にとってもストレスフルなのです。

リウマチの患者さんに使用する場合は、抗がん剤として使用する数千分の一の量ですから、内服した患者さんがすぐに副作用で死にいたるというとはありません。ですが、十分副作用のチェックを行いながら使うことは必須のことであり、患者さんにもそこのところをしっかりと認識しておいていただきたいと思うのです。

さて、最近メソトレキセートの発売後10年間の副作用などをまとめた報告が、製薬メーカーから発表されましたが、これは「先発品」についてのデータです。「後発品」いわゆる「ジェネリック」については、このようなデータはまったく収集されていません(あるいは、公表されていないということかもしれません)。ここが、安いからといって簡単にジェネリックに乗り換えられない最大の理由です。

それはさておき、一番気になるのは副作用が原因と思われる死亡例です。今回のデータでは、361例の死亡例が公表されています。主なところは血液障害が132例、呼吸器障害が112例、感染症が61例となっています。

血液障害とは、血液中の細胞成分(赤血球、白血球、血小板)が減少してしまうような状態です。呼吸器障害では、圧倒的に間質性肺炎という特殊な肺炎がしめています。感染症は免疫力を抑える薬理効果のために、普段はあまり問題にならないような菌によって病気が発生しているのです。

発売後5年間での報告では130人程度の死亡例が報告されていましたから、その後使用する患者数が増加していることを考えると、今回の361名という数は発生頻度としては増えてもいないが減ってもいないというような状況だろうと思われます。

最近のリウマチ薬は、市販された後も一定期間全例登録して、問題の有無を厳密にチェックしていますので、正確な発生頻度がわかります。しかし、残念ながらメソトレキセートについては、正確な使用数がわかっていないため、何人に使用して361名が亡くなったのかはわかっていません。

5年目のデータが発表されたときに、女子医大リウマチセンターでおおよその推計をしたところでは、一人のメソトレキセートを服用しているリウマチ患者さんが副作用のために亡くなる確立は、2万年に1回と試算されています。もちろん。その2万年に1回が明日来ることもあるかもしれませんが、一般的にはいろいろな事故で偶然に死亡する確立と比べればあまり心配するようなものではありません。

ただし、それはあくまでも、しっかりと副作用の危険を認識した上でモニタリングを行っていることが前提条件にあるわけです。実際、死亡症例の多くは適切な服用をしなかった場合とか、定期的な診察と検査を行われずに見過ごしていた場合などに多いようで、このあたりは使用する医者側の責任が大変重い。

副作用が発現するのは、服用を開始してからすぐに多いと思われている方が多いかもしれませんが、実際には服用期間はあまり関係ないのです。投与期間の長短にかかわらず、いつでも起こりうるということには注意が必要です。また使用量についても少ないからといって安全とは必ずしも言えません。

いずれにしても、ある程度高齢の方や、もとに肺障害や腎障害、肝障害がある方はリスクが高いと考えられますから、その使用には慎重を期すべきということがいえます。

大変効果が期待できる良い薬でありますが、主作用が強いということは副作用も強いということを認識しておくことが重要です(逆に、一般には副作用が少ないということは主作用も弱い)。長く使用していて、特に問題がないとしだいに気が緩みがちになりますが、このようなデータを見てあらためて十分な注意をしていかないといけないということ思うわけです。