2010年5月16日日曜日

Emerson Lake & Palmer / Pictures at an Exhibition

ムソルグスキーは19世紀半ばにロシアで活躍した国民楽派5人組の作曲家の一人。酒に溺れて(?)、比較的早くに亡くなって、作曲数はそれほど多くはありません。それでも、クラシックの名曲として必ず数えられる物の中に「禿げ山の一夜」と「展覧会の絵」があります。

展覧会の絵は1874年の作品で、亡くなった友人の画家の追悼展覧会での印象をピアノ独奏の組曲にしたもの。多くの有名なピアニストに取り上げられています。ところが、たいてい誰もが耳にしたことがあるのはオーケストラ版でしょう。これはフランスのモーリス・ラベル(ボレロで有名)によって編曲された物。出だしのトランペットから印象的で、原曲の持ち味を残しつつも都会的な精錬されたアンサンブルになっています。

ところが、自分の場合、さらに強烈なインパクトがあったのがこれ。エマーソン・レイク&パーマーによるプログレッシブ・ロック版です。これは発表されたのは1970年ですから、もう40年も前のもので、当時はビートルズより、もっと演奏、特にアドリブを聴かせるバンドが登場し始めた頃。

ハードロックの代表はイギリスのレッド・ツェッペリンとアメリカのグランド・ファンク・レイルロード。いずれもこの頃に来日して後楽園球場とかでコンサートをやって、多いにわかせたものです。それに対して、やや芸術的なちょっと小難しいことをやるのがプログレッシブ・ロックで、キング・クリムゾン、イエスが代表でした。

そしてナイスというグループでキーボードをがんがんに操って人気があったキース・エマーソンがクリムゾンのベース&ボーカルを担当していたグレッグ・レイクと、アトミック・ルースターのドラムだったカール・パーマーとトリオを結成したのがエマーソン・レイク&パーマーでした。

デヴュー・アルバムは衝撃的なアルバムでしたが、それを上回ったのが三枚目の「タルカス」。キーボード中心のトリオで演奏するには、もうこれ以上のことはできないだろうと思えるような究極のアルバムで、おそらくロックの歴史の中でもBEST10に入ることは間違いないでしょう。

ところが、その間に発表された二枚目のアルバムがなんと「展覧会の絵」だったのです。オリジナルのタルカスよりは多少評価が落ちるのはしょうがないとして、クラシックの名曲を完全に自分たちの音楽として消化しきっているのです。

最初のテーマの「プロムナード」はエマーソンのハモンド・オルガンの音から始まります。そこへレイクの硬質なベース音が切り込んでくる。パーマーの二本の手と二本の足だけとは思えない驚愕のドラムが音の洪水をかき分けていくのです。このあたりの編曲能力だけでもたいしたものですが、そこにオリジナル曲をいくつか滑り込ましていて、それが何の違和感もないのもすごいことです。

さらに凄すぎて唖然としてしまうのは、これだけ練りに練った音楽がライブ録音であることです。オーバーダビングとかすればどうにでもなるわけですが、ライブでは正真正銘三人だけですから、この一糸乱れぬ演奏からの緊張感といったらそりゃもう気が遠くなりそうです。

はっきり言って、今の時代の音楽はそのバンドでなくてもかまわないような、聴く側の好みを中心にしたものばかりです。あの頃は、それぞれのバンドが、「これを聴け!!」という具合に、独自のワールドを強烈に持っていて、誰も真似できるようなものではありませんでしたね。