高倉健は、過酷だった八甲田の雪山のロケを終え映画が公開された年、早くも春から次回作の準備にとりかかりました。ここでも、それまでの健さんのイメージを大きく打ち破るキャラクターに挑戦することになります。
1969年から数本を除いて、すでに20本弱の「フーテンの寅さん」映画を作っていた山田洋次監督は、倍賞千恵子が口ずさんでいた「幸せの黄色いリボン」の歌に心をとめ、その歌詞の内容を映画にすることにしました。
主役には高倉健というのはすぐに決まり、不思議な雰囲気で人気が出始めた桃井かおりも比較的簡単に決定。もう一人の主役、武田鉄矢は歌手として落ち目の時期で、俳優は未経験。それでも、九州出身の不器用な男というイメージからの選択でした。
通常は「日本製ロード・ムービー」というくくりで語られ、第1回日本アカデミー賞を総なめにした名作と説明されますが、行く先々での人々との交流が描かれるわけではありません。
それぞれ心に傷を持つ赤の他人の三人が、偶然一緒に旅をする中で、少しずつ前を向いていこうとする話で、基本的には三人芝居のヒューマン・ドラマというのが正しいと思います。
彼女に振られた欽也(武田鉄矢)は、仕事を辞めた退職金で車を買い、北海道へ旅立ちます。網走で、彼氏を友人に横取りされ旅に出た朱美(桃井かおり)をナンパして、海岸に出たところで、殺人で6年間の服役を終えて出所したばかりの勇作(高倉健)とも出会い、3人で旅をすることになりました。
泊まった宿で朱美にせまる欽也に対して勇作は一喝したり、ろくに運転できない朱美が車を脱輪させて立往生したりと、いろいろなことがある中で、チンピラにからまれた欽也を勇作は助けて自ら運転してその場を走り去りました。
しかし、たまたま警察の検問があり、勇作は無免許のため捕まってしまいます。しかし、偶然にも以前世話になった警部(渥美清)がいて見逃してもらえることになりました。このことで、勇作が殺人を犯した過去があることを二人は知ります。
それでも、3人は旅を続け、勇作の過去の話を聞くことになるのです。夕張の炭鉱で働き、結婚していたこと。奥さん(倍賞千恵子)が流産したことで、むしゃくしゃしてチンピラと喧嘩になり死なせてしまったこと。奥さんに別れ話をしたこと。
そして、勇作は出所してすぐに、もしもまだ待っていてくれているなら、家に前に黄色いハンカチを目印にしておいてくれとハガキに書いて出したことを話すのでした。欽也と朱美は、一緒に夕張に行くことにしますが、家が近づくと「待っているはずがない」と嫌がる勇作を無理に連れていきます。
欽也と朱美が車から降りて見ると、なんとたくさんの黄色のハンカチが風にたなびいていました。二人は勇作を車から降ろし、背中を押し出すのでした。欽也と朱美もやっと吹っ切れる想いになりました。
人情喜劇が得意な山田監督は、主として笑いは武田鉄矢と桃井かおりに任せていますが、健さんも強そうで実は弱い人間であるという面を引き出しています。奥さんが待っていないだろうとくよくよするところは、それまでの高倉健像では考えられない。
しかし、物語が進むにつれ健さんの視点で、観客の気持ちをしだいに作り上げていき、応援したくなるように仕向けていくのはさすが。期待通りの裏切らない結末で、健さんと一緒に安堵できる映画です。