原作は作詞家の阿久悠による自伝的小説で、監督は篠田正浩。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの渡辺謙の映画デヴュー作。
・・・というより、この映画を最も有名にしたのは夏目雅子であり、しかも夏目の遺作となったことが大きいと言わざるをえない。
やはり、あらためて観賞すると、確かに夏目雅子の美しさに異を唱えるものはいないでしょうし、画面から湧いてくる女優としての凛としたたたずまいは見事です。
おそらく、今どきの「身近な」雰囲気とは逆の、吉永小百合を代表とする「近づきがたい」、「神聖な」イメージを体現した最後の女優なのかもしれません。しかも、若くして亡くなったことで、完全に伝説化・神格化し、後に続く者にとっては乗り越えられない壁となったように思います。
映画は、敗戦による淡路島という狭い地域の混乱をこどもたちの視点から描いた群像劇。夏目雅子は、この映画で日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞しましたが、あくまでも主役は竜太(山内圭哉 )、バラケツ(大森嘉之)、武女(佐倉しおり)の3人のこどもです。
冒頭、終戦の玉音放送から一転して、"In the Mood"の浮かれるようなスイング・ジャズが響き渡るのは、これから急速に日本が変わっていくことを端的に合わらしていて見事な始まりです。
駒子(夏目雅子)が教鞭をとる淡路島の学校へ、武女が転校してきました。武女の父親(伊丹十三)は戦犯となることを予想して、一時の娘との安らぎを求めていました。こどもたちは仲良しになり、武女は島の生活に馴染んでいきます。
まじめな竜太の両親は戦争で亡くなり、村の駐在をしている祖父(大滝修二)と祖母(加藤治子)のもとで暮らしていました。バラケツは、アメリカ軍に取り入って羽振りの良い兄にならって、金儲けを考えるようなこども。
駒子は網元の家に嫁入りしましたが、召集された夫の正夫(郷ひろみ)は安否不明。正夫の弟の鉄夫(渡辺謙)からの求婚を、頑なに拒み続けていました。戦争で片脚を失った正夫は、密かに島に戻り駒子に連絡を取りますが、鉄夫に強引に関係を持たされたために拒絶しました。
床屋を営むトメ(岩下志麻)は戦争未亡人で、剣劇役者に入れあげたあげく、店をバーに改装します。武女の父親も、戦犯として収監されるため島を去りました。島の生活が激変していく中で、自分も、そしてこどもたちも心をしっかり持ち続けるために、駒子は「野球をしましょう」と言い出しました。
そして、自分を取り戻した駒子は正夫を迎えに行き島に連れ戻します。二人はこどもたちに野球を教え、皆がすこしずつ自信を回復し始めていた時、武女の父親が死刑に処せられたという連絡が入ります。
進駐軍として来島したアメリカ兵が帰国するにあたって、こどもたちと野球をしようということになり、武女を先頭にアメリカに勝ちたいという気持ちで試合に臨むのでした。
終戦直後から、日本の国内でどんなことが起こっていたのかという、たくさんの問題を提示しているのですが、こどもの側から描くことで深刻になり過ぎず、わかやすく伝えることに成功していると思います。
復員軍人、傷痍軍人の問題。戦犯の問題。戦争未亡人の問題。闇市の問題。学校の教育変化の問題。進駐軍に対する恐怖。生活の再建の方法・・・などなど。日本が、まさに180゜転換する中で、さまざまなことが日本人の生活に影響していたことが伝わってきます。
自分の場合は、高度経済成長期の時代のこどもですから、当然終戦直後のことは実体験していません。話として聞いていても、なかなかピンと来ないわけですから、このような映画を通じて・・・そして、夏目雅子の美しさを懐かしみながら、考えてみることがあってもよいようです。
もちろん、そこまで難しく考えなくても、戦後のこどもたちの生活を垣間見るだけでも楽しい映画です。今は、DVDも中古しか手に入らず、場合によってはプレミアがついています。リマスターして、せめてBlurayでの再発売を期待したいものです。