夏季臨時休診

夏季臨時休診のお知らせ 8月14日(金)~8月19日(水)臨時休診します。

2026年7月25日土曜日

The Complete Budokan 1978 (1978, release 2023)


1972年11月に映画のためにボブ・ディランは、家族を連れてメキシコに一時移住しました。おそらく、このあたりから交通事故後は家庭人として優等生だったディランと妻のサラの関係にひびが入り始めたのではないかと、勝手に想像します。ですから「Planet Waves」では「Wedding Song」で変わらない愛を歌いましたが、1974年の年明けからThe Bandとのツアーが始まり音楽中心の生活になったことが、より一層の不満をサラに抱かせたことは間違いない。

そのために「Blood on the Tracks」は、二人の関係を修復したい気持ちとあきらめから不安が入り混じった複雑な歌ばかりが並ぶことになりますが、やはり常人とはちょっと違うのがディランという人です。「Rolling Thunder Revue」は、昔の恋人だったジョーン・バエズを招き仲良くデュエットをしてしまうのですから、当然サラの不満・怒りは頂点に達し、第1期ツアーが終了した時点で完全に修復不能なほどに関係が崩壊しました。

第2期ツアー後は、ディランは撮影した映画「Renaldo & Clara」の編集作業に没頭します。目立った音楽的な活動は1976年11月のThe Bandの解散コンサート出演くらいでした。1977年3月にサラは裁判所に離婚を申請。こどもたちの親権や財産分与についてすったもんだの末に、6月末に離婚が成立します。

足掛け5年近い私生活のもたつきは、音楽を楽しむうえで不要と考えがちですが、こうしてディランの生み出してきた音楽を続けて聞いていくと、プライベートとは言えこれらの経緯が音楽そのものに大きな影響を及ぼしていたことがわかります。また、物議をかもしたこの後の初来日公演の意味も理解しやすくなります。

不評で終わった第2期「Rolling Thunder Revue」の経済的な損失と離婚による莫大な和解金は、さすがのディランであっても大きな打撃となりました。それが、翌年の日本を含む世界ツアーを行う呼び水になったわけで、初めてディランを迎える日本からすれば喜ばしいことだったわけです。

秋から少しずつツアーの準備を始めるのですが、ここで日本のプロモーターから「過去のヒット曲」をリクエストされたディランは、以前なら無視するところですが、何しろ今は金が必要です。ところが困ったことに中には長いこと歌っていない曲もあるので、歌詞どころかメロディもいまいちわからないというわけで、自分の曲の楽譜集を購入したという笑うに笑えない逸話があったりします。

12月になるとカリフォルニア州サンタモニカにある、ディラン自身のスタジオ「ランダウン・スタジオ(Rundown Studios)」でツアーのリハーサルが始まります。このツアーは、今までの「ボブ・ディラン」を壊して、新たに再生するという目的があり、フォーク・ロック路線を捨ててホーンと女性コーラスを加えたビッグバンドへの転向という目的でメンバーが集められました。この年の8月にエルビス・プレスリーが亡くなっていて、この変化はプレスリーのショーのイメージが関係しているといわれています。

新しいバンドのまとめ役は、前年のツアーから参加しているロブ・ストーナー(b)で、スティーヴン・ソールズ(g)とデヴィッド・マンスフィールド(vn)も続投されました。新たなメンバーは、ビリー・クロス(g)、アラン・パスクァ(key)、イアン・ウォレス(ds)、ボビー・ホール(perc)、スティーヴ・ダグラス(sax)らで、女性バックコーラス(ヘレナ・スプリングス、ジョー・アン・ハリス、デビー・ダイ)が加わり華やかさとゴスペル感が強まりました。

私設スタジオでのリハーサルは、かなり熱の入ったもので、ディランは次々にレパートリーを追加していき、積極的に古い曲は今までのイメージを崩すようにしたため、メンバーは大変だったようです。実はこれらのリハーサル音源は、後に「Rundown Rehearsal Tapes」と呼ばれる海賊盤として出回り、密度の高い集中したセッションは高く評価されています。

年が明けて、いよいよ世界ツアーが開始されますが、まずスタートは2月20日から3月4日の日本での11公演で、大阪3公演以外はすべて日本武道館でした。このうち、2月28日と3月1日に、日本からの強い要請でライブ録音が行われました。両日からチョイスされた全22曲が収録された2枚組レコードとして8月に日本だけで発売されましたが、ディランも録音の良さを認め翌年4月に全世界でも発売されました。

本来なら、この「Bob Dylan at Budokan」を聞けば良いのですが、実は実際のステージでのセットリストは無視した順番で曲が並んでいるため、当時の雰囲気が伝わりにくいのです。ところが、2007年にソニーの静岡工場でおよそ30年ぶりにこの時のマスターテープが発見され、日本サイドが粘り強く交渉を重ねた結果、ついに2日間のコンサートの様子を丸ごと収録した完全版が2023年に発売されました。コンサートの様子をそのまま感じ取るには、あえてこちらの完全版を強くお勧めします。

初来日ということで、いろいろと大騒ぎで注目されたわけですが、デニムに身を包んだフォーク・ギターを抱えたディランの登場を期待していたかどうかわかりませんが、ステージに現れたディランは何と白いスーツ姿。しかも1曲目はみんなが大好きな「激しい雨」・・・なんですが、驚いたことに何とディランが歌わない。インストゥルメンタルです。これには集まった聴衆は度肝を抜かれたに違いありません。まさに今回のライブはこんな感じで行くと目次を見せられたような感じです。

確かにセットリストには有名曲がふんだんに盛り込まれているのですが、今までにないアレンジが施され、曲によっては原形をとどめていないものすらあります。このことと、ディランがラスベガスのスター然とした衣装やバンド編成であったため、日本国内でも本国アメリカでも批判的な論評が多く出されています。

実際のところ、過去の演奏を知らずに初めて聞くなら、うん、そうか、ですむんですが、さすがに思っていたものと違うというのは、聞く側からするとちょっと辛い。その都度、スタイルをガラリと変えてきたのがディランだと思うようにしても、期待との落差は埋められない溝を感じます。

もっともとても聞きやすいディランというのも妙ですが、即興性が目立つディランにアレンジ力が意外とあるという発見もあり、今まで作り上げてきた偶像を破壊するという目的は十分に達成したステージだと言えるかもしれません。ディラン一行は日本公演が終わるとすぐさま移動し、ニュージーランド、オーストラリアで11公演を4月1日まで行い、世界ツアーの第1レグを終了しています。


A Hard Rain's a-Gonna Fall
Repossession Blues
Mr. Tambourine Man
I Threw It All Away
Shelter from the Storm
Love Minus Zero / No Limit
Girl from the North Country
Ballad of a Thin Man
Maggie's Farm
To Ramona
Like a Rolling Stone
I Shall Be Released
Is Your Love in Vain?
Going, Going, Gone
One of Us Must Know (Sooner or Later)
Blowin' in the Wind
Just Like a Woman
Oh, Sister
Simple Twist of Fate
You're a Big Girl Now
All Along the Watchtower
I Want You
All I Really Want to Do
Tomorrow Is a Long Time
Don't Think Twice, It's All Right
It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding)
Forever Young
The Times They Are A-Changin'

February 28, 1978, Budokan, Tokyo


A Hard Rain's A-Gonna Fall
Love Her with a Feeling
Mr. Tambourine Man
I Threw It All Away
Love Minus Zero / No Limit
Shelter from the Storm
Girl from the North Country
Ballad of a Thin Man
Maggie's Farm
One More Cup of Coffee (Valley Below)
Like a Rolling Stone
I Shall Be Released
Is Your Love in Vain?
Going, Going, Gone
One of Us Must Know (Sooner or Later)
Blowin' in the Wind
Just Like a Woman
Oh, Sister
I Don't Believe You (She Acts Like We Never Have Met)
You're a Big Girl Now
All Along the Watchtower
I Want You
All I Really Want to Do
Knockin' On Heaven's Door
The Man In Me
It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding)
Forever Young
The Times They Are A-Changin'

March 1, 1978, Budokan, Tokyo


Bob Dylan (vo, g, harmonica), Steve Douglas (sax, fl, recorder)
Steven Soles (aco.g, backing vo), Billy Cross (g), Alan Pasqua (key)
David Mansfield (pedal steel g, vn, mandolin, dobro)
Rob Stoner (b, backing vo), Ian Wallace (ds), Bobbye Hall (perc)
Debi Dye, Jo Ann Harris, Helena Springs (backing vo)

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