2009年10月26日月曜日

リウマチ新診断基準

今日は朝から冷たい雨が降り、風も強くて日中も気温が上がらず、超ぅ~うぉ~う、閑でした。スタッフは、日頃できないいろいろなところの整理や掃除に精を出してくれましたので、たまにはこんな日もあってもいいかと思います。

さて、日頃からリウマチ診療を行っていて、いつも感じていたのは、1987年に作られたアメリカリウマチ学会の分類基準が、20年以上だってもいまだに診断の要になっているのは如何な物かということでした。

この間に、メソトレキセートという画期的な内服薬の登場、さらにその上をいく生物学的製剤が普及。検査ではMMP3や抗シトルリン化ペプチド抗体の測定、画像診断でもMRI検査や超音波検査が用いられるようになり、いかに早期に病気を発見し確定するか、そしていかに早期に寛解状態(治癒に近い状態)にもっていくかが専門家の間では焦点となっている昨今です。

しかし、根拠のある医学(EBM)の元では、すでにかびを生え始めた20数年前の基準を満たしていることが求められてきたのです。どう考えても時代のニーズにマッチしていないのは歴然としていて、これではハードルの高い現在の治療目標を達成することは困難でした。

実際、自分も日本リウマチ学会が作成した早期基準をもとに診断を考えるようにしているわけで、過去の基準はほとんど使うことはありませんでした。その早期基準も完璧とはいえず、必ずしも高い精度があるとは言えませんので、日本でもより早期に高い確率で診断を確定するツールの模索が始まっています。

そこへ、ある意味衝撃的なニュースが飛び込んできました。今、アメリカではアメリカリウマチ学会(ACR)が行われているのですが、ついにその場でヨーロッパリウマチ学会(EULAR)と共同で新診断基準が発表されたというのです。

やっとリウマチ学の総本山が動いたと言うことも驚きですが、ヨーロッパと共同というのも凄い話です。最近は、ヨーロッパの学会の方がいろいろな新しい波を敏感に感じ取った動きが目立っていて、リウマチ学の中心がアメリカからシフトしている印象を持っていました。

ですから、アメリカの学会もヨーロッパを無視することはできなくなったのでしょうか。日本人には欧米人とは違ったリウマチの特徴が無いわけではないので、日本の学会もここに混ざっていたならさぞかしよかったと思います。まぁ、これから日本人に向けたローカルルールなどが見当されていくことになるのでしょう。

さてこの新しいACR/EULAR基準の最大の特徴は、これまで画一的に項目の数だけで判定したのに対して、項目の中に点数制を導入し、疑わしい項目に対して比重の重さ軽さの考え方を取り入れたことにあります。

従来、リウマチ結節という項目がありましたが、病初期から認めることは希で、何で基準に入っているのか疑問を感じていました。また、朝のこわばりというのも有名な言葉になってしまいましたが、ある程度疾患とは関係なく感じる症状なので特異性は低いのです。

今回はこのような不確実な項目が排除され、自分としても比較的納得できる形に整理されたと思います。新基準では関節病変(0~5点)、リウマチ因子及び抗シトルリン化ペプチド抗体(0~3点)、滑膜炎持続期間(0~1点)、炎症マーカー(0~1点)の4つの項目に集約され合計10点のうち6点以上を確定とするなりました。

しかし、症状である関節病変を一番点を多くしたことは理解できますが、その中身を「腫脹または疼痛」としたことはちょっと残念。疼痛だけと腫脹もあるのでは、疑い方には相当な差があることはリウマチ診療に携わっていれば、誰でも感じていることだと思います。

その点を病変関節の数で補っているようなのですが、このあたりは早期の患者さんの取りこぼしがないようにという意図が入っているのでしょう。ただし、その分誤診を生じる余地になってしまうのではないかと危惧します。

逆に、これまでどんなに疑わしい腫れ方をした関節を見ても、それが一カ所しか無い場合は診断を確定することはできなかったのですが、例え一カ所でも診断を下すことができるようになったことは意義深いことだと思います。

これから、実際にいろいろな臨床の場で、この新基準の妥当性が討論されていくことになると思いますが、より現状にそくした使える基準が発表されたということは間違いなく、臨床の現場としては歓迎したいと考えます。


中・大関節:肩関節、肘関節、股関節、膝関節、足関節
小関節:MCP関節、PIP関節、第2~第5MTP関節、第1IP関節、手関節
血清学的因子:陰性=正常上限値以下、陽性・低力価=正常上限値の1~3倍まで、陽性・高力価=正常上限値の3倍より大
滑膜炎持続期間:評価実施時に存在する滑膜炎に関して、患者自身の報告に基づく滑膜炎症状(疼痛、腫脹、圧痛)の持続期間
炎症マーカー:正常/異常の基準値は各施設で採用しているものに準ずる